企画『貴方が担当した小説は』

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足が棒のようになっていた事も忘れ、 踊るようにテーブルへ向かった。 「もっちー疲れてるだろ? 準備なら俺がするから 無理しなくても……」 「せっかくシュートがくれたんだもん。 熱々のうちに食べたいじゃん?」 言葉を交わしながらテーブルを拭き上げ、 ナフキンや食器を並べる。 グラタンが焼けるタイミングで 具だくさんのポトフ、 カラフルなチキンサラダが運ばれた。 「あれ?なんで対面じゃないの?」 「たまには、仲良く 横に並んで食べたくてさっ」 「そっか。」 食事中、デレデレになった光希を 手厚く介抱してあげようという 下心にも気付かず、 僕のセッティングに倣って食事を並べる。 「確かシュートって、 地方の清掃依頼を受けて、 トンググレーと出張してたよね」 「そうそう。それでお土産に、 キノコとゆるキャラグッズをくれたんだ」 「…ゆるキャラ?」 「ネコの被り物って言ってたかな。 俺に似合いそうだと思ったんだって」 (ネコの被り物って事は! ネコ耳とか!??) デレ茸の効果でデレデレになった光希に 付けさせて、ニャンニャン泣かせる…。 そんな想像を膨らませていたが。 袋から出て来たのは、 武将の兜を被った動物の帽子だった。 「あ。これネコじゃなくて犬だな。 俺が剣道部時代の写真を見せた事を 覚えてくれてたのかも」 「まあ…そんな上手い事いくワケないか」 「?」 「ううんコッチの話! そろそろ食べようか」 先にサラダとポトフを食べ始め、 少し経った頃、グラタンが焼き上がった。 グラタン皿が食卓に置かれ、 例の香ばしい匂いが、 蒸気によって運ばれる。 「これだけ熱いと、眼鏡曇っちゃうな」 ミトンを片付けた光希は、 席に戻る前に眼鏡ケースを開く。 眼鏡を掛けていると優男風に見えるのに 外した途端溢れかえる漢の色気が たまらないんだよなあ……。 (…違う違う!光希は可愛い、 僕のリンゴちゃんなんだから) ぶんぶんと首を振って、考えを振り払う。 息を吹きかけグラタンを頬張ると あの香りが口内に広がり……。 「……あれ?」 急に顔が熱くなり、頬が緩む。 もしかしてこれが、 デレ茸の効果なのか――――。 (って事は、もしかして光希も―――) 慌てて隣を見ると、表情こそ いつも通りだけど、顔が真っ赤だ。 「みーちゃんっ。このキノコ…」 「ああ。食べた途端、 暑くなってきたのは、コレが原因だろうな…」 ふう…と息をつき、 ワイシャツのボタンを 上から2番目まで外した。 鎖骨が落とす影の濃さが、 光希の雄らしさを一層引き立てて…。
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