化けレジ

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「店長!レジが化けました!」 「はぁ!?なに言ってんだ!?」 慌てた男が事務所へ駆け込んでくる しどろもどろで眼も泳ぎ、どうやらとんでもない事が起きたようだ 「とりあえず落ち着け 何がどうした」 「レジに脚が生えて逃げていきまして」 「……あのな、確かにお前はミスが多いしおっちょこちょいだ でも素直で真面目でピンチの時にはシフトに入ってくれるし助かってる このまま育てれば大物に化けると思っていたんだ だけど嘘はいけねぇよ」 「なら監視カメラ!監視カメラ見てください!」 「そんな大声出すんじゃないよ 先週風邪で休んだんだから喉を大切にしなさいな」 「いいからはやく!」 あまりにも真剣なその様子に根負けし、映像をチェックすることにした するとそこには 「確かにレジが逃げてるな こう、なんというか、化けるとしか表現しようがないかも」 「そうでしょう店長!? 今日の売り上げ全部入ってますよ」 レジの両脇からニョキリと細い脚が生える しかもタヌキやキツネのカワイイ獣の脚ではない どちらかといえばゴキブリの脚だ そのままピョンとレジ台から飛び降りて、ちゃかちゃかとどこかへ走り去っていった 「でもこの化けレジ、外には出れていないよな?」 「もう閉店時間ですから扉の鍵は閉めてました」 「じゃあこの店内に潜んでいるのか どういう仕組みかわからねぇが、とりあえず捕まえて金を取り返すぞ!」 素手では心許ないので店長と2人武器を携えて無人の店内を練り歩く それなりに大きいレジのため、棚の下に隠れたりなんてしないだろうが油断はできない 「店長、あの化けレジって随分古いやつですよね」 「この店じゃ一番のベテランだな なんだ、古いから化けたって言いたいのか?」 「電子決済対応の新品を入れよう!なんて話してたから拗ねたんじゃないですか」 「だからってなんでゴキブリになるんだ」 「それは化けレジ本人に聞いてくださいよ 頑張れば喋ってくれるんじゃ」 「おい、ちょっと静かに なんか聞こえないか?」 ジャラジャラ ジャラジャラ 奥の倉庫から小銭が擦れる音がする おそるおそるドアを開いて中を覗けば、化けレジが窓に向けてピョンピョンと飛び跳ねていた どうやら外へ逃げたいようだが窓には届かず四苦八苦 生えているのがゴキブリの脚でなければ癒される風景だ 「どうします店長?とりあえず一回撃って黙らせます?」 「待て待て あぁなっちまっても愛着のあるレジスターだ 手荒な真似はしたくねぇ」 店長はゆっくりと近づいていく 驚かさないよう静かに語りかけ始めた 「なぁ化けレジ お前がどうしてそうなったのか理由は知らねぇ ただその金は返してくれねぇか?」 果たして言葉が通じたのか、化けレジは跳ぶのを止めてお金を並べ始めた 紙幣 硬貨 硬貨 硬貨 少し間をあけてまた同じように紙幣 硬貨 器用に等間隔で並べていく 「なんだ?それだけしか返さないつもりか?」 「あっ!違います店長 それ、モールス信号ですよ!」 「モールス信号?」 「トンツーであらわすアレですよ 硬貨がトン 紙幣がツー だからこれだと……タスケテ?」 「頭がおかしくなりそうだが状況を整理しよう 化けレジ、お前は宇宙人だと」 「正確には遠い星から精神だけワープしてきた地球外生命体ですね」 「お前よくそんなすぐ飲み込めるな 会話手段はモールス信号だろ?」 「店長こそ理解しようとする努力が足りませんよ」 「もういいや、お前が説明してくれ」 「地球人が何も知らないだけで、実はいろんな星にワープステーションが設置されています そこに精神だけを送り、その星に合わせたボディに入ることで星間旅行を楽しんでいるのです」 「本当にそんなこと言ってたか?」 「しかし犯罪者が地球へ逃亡 追手をかわすためにワープステーションも破壊してしまった そのせいでワープ中の精神は仮のボディに入れずさまよっている緊急事態」 「へー、そうなんだ」 「化けレジさんも困り果てていたところ、奇跡的にウチのレジがボディとして適合して今に至るというわけです」 よくできましたと言うように、化けレジが大きく深く頷く 意思疎通が出来て嬉しいのかちょこちょこと周囲を走り始めた 「で、店長どうします?」 「どうするってなんだ」 「だから、化けレジは警察官なんです 危険を承知でワープした正義の熱血漢 犯罪者を捕まえて母星に帰りたいがワープステーションも壊れてどうしようもない 誰かの助けが必要なんです」 「じゃあお前が手伝ってやれよ 明日からのシフト組み替えとくから」 「店長!そんな薄情な この店の力を使って助けてあげましょうよ」 「バカお前この店は非合法だって知ってんだろ 外国から取り寄せた銃やドラッグを売りながら、ヤクザともいいお付き合いをしつつ警察にも情報屋として綱渡り 厄介ごとはゴメンだぜ」 「だからこそですよ その情報網を使えば何かわかるかもしれませんし、地球に逃げ込んだ危険な犯罪者が何をするか心配じゃないんですか!?」 「そもそもその化けレジの戯言が本当だって証拠はあるのかよ」 「本当ですよ!見てください!」 そう言いながら自分の手をガチャリと外して店長に投げ渡した 肩から先が綺麗に取れて、うっすらと光る機械じみた断面が顔を覗かせている 「僕も地球外生命体なんです コレがいわゆる仮ボディってやつでして」 「……そうか じゃあ先週風邪で休んだのは」 「ズル休みです」 「真面目だと思ってたのに化けの皮が剝がれたな」
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