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なんでも飲み込んできた。
笑顔の下に誤魔化して、自分さえ我慢すればと、わたしが悪いのかもと自責してきた。
自分を肯定できないことは何よりも辛い。
毎日毎日、世界なんて滅びてしまえばいいと呪いながら生き続ける。そんな自分が嫌で、変わりたくて、でもできなくて願った。
わたしじゃなくなればいいんだ。
わたしが消えて、世界に受け入れられるわたしに変わったなら、きっと生きやすくなる。
やっと来た。
この日を待っていた。
「くふふふふ」
わたしは飛び上がり上司に馬乗りになると「おい」と顔をのぞき込んだ。
あんなに傲慢な男は近くで見るとこ汚い太ったおっさんだった。髭の剃り残しがある。皺やシミも酷い。乾燥して頬の皮はむけているのに鼻の頭はてかてかしている。
こんな醜く汚いおっさんにわたしの尊厳が穢されていたのかと思うと残念だった。
こんな小物はさっさと蹴散らしてやればよかったのだ。
「醜いなあ♡」
まるで女子高生のように弾んだ声が出た。
放課後のファーストフードではしゃいでいる女子たちのように楽しくて仕方ない声色。
「お前みたいなザコになんで虐げられてきたんだろうなあ?」
今度は戦う女性戦士のように。
今のわたしに怖いものなど何もなかった。
心に押し殺していた青い炎がすべてを焼き尽くそうと暴れだしている。
わたしは何者にもなれず、何者でもなかった。
ただ宇宙に浮かぶ小さな塵。
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