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「ごめんなさいごめんなさい」と上司は繰り返した。
怯えきって涙を流し拝むように手を合わせている。
今度は菩薩になれと言うのかと思うとおかしくてきゃはははと笑い声をあげた。
「許されると思ってるのか? かーわいい。世間知らずもいいところだな」
震える上司の頭を掴むと机に一気に押しつけた。
ガツンと鈍い音がして「ひい」っと死にそうな豚みたいな声がした。
回りの社員たちは動けないのか、ただじっと事の行方を見つめ続けている。
お前たちも無能だなと呆れたように視線を回した。
指示がなければ動けない。誰かの後を黙ってついていくしか能のない大人たち。
善悪の区別も、危機感も全くない。知識も意識も持ち合わせていない家畜ども。
「いいのか?」
わたしはひとりひとりに目を合わせようとして逸らされた。見なければなかったことにできると思うのか、目を伏せたまま動かない。
「こいつを助けたい奴はいないのか?」
しんとしたまま誰一人としてうつむいたままだ。
「わかった」
わたしは上司の頭から手を離すとベタつく手のひらを乱暴に擦り、息を吐いた。
こんなつまらない奴らの為にわたしはわたしじゃないものになりたかったのか。
誰一人として正義感も持ち合わせていない。
その場の空気に染まるだけで、自分を保てない人たち。
きっとわたしがいなくなった途端、興奮して騒ぎSNSにあげるのだろう。隠れながら動画を取っている奴も目に入っている。
それがこいつらの正体なのだ。
くだらない。
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