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わたしは素のわたしにもどると、自分の席に戻って私物をカバンに詰め始めた。要らない物だらけだった。
ここで大切にしなきゃいけないと思っていたものが全てゴミで、一番守るべきものは自分自身だったのに。
憑き物が落ちたように関心を失っていた。
こんなもののために毎日苦しみもがいていたのかと思うと笑える。
「ふふっ」
つい笑い声をこぼすと社員たちがビクリとするのが目に入った。
怖いんだ、わたしが。
今まで見下して、下僕のようにあつかっていたくせに。
ああ、おかしい。
ああ、ばからしい。
あなたたちはここでお仕事ごっこをこれからも繰り返していくのだろう。何の疑問も持たずに。
どうでもいい歯車の一つとして、ハムスターが周り車を必死に駆けるように。
持ち帰りたい私物だけをカバンに詰め終わると、クルっと社内をみわたした。上司はまだ震えたままで他の社員たちは目をそらした。
「どうもお世話になりました」
ペコリと頭を下げると背を向け会社を後にした。
エレベーターを待っている間に社内がどっと沸くのを耳にした。想像通りだ。
「何あの人、こわ~」
「ちょっと頭おかしいんじゃない?」
「つーか、動画上げよう。すげー迫力だったし」
いい年をした大人があれだけ集まって出来上がった集団が、小学生とたいして変わらないとか同情する。
わたしはスっと背筋を伸ばしてエレベーターに乗り込むと1Fボタンを押した。
もうここに来ることはないのだ。
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