1人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「ええ。いつもは奧さんが散歩させておいでですよね?」
「ああ……普段からおやつを貰っているとは知りませんでした。申し訳ないです」
と、言いながらも、勝手にモノを食べさせるのはいけないことだと、言外に匂わせた。
「今が一番可愛いときですね」
奧さんはそう言い、しっぽをふりふり、もっとおやつをねだるポチの頭をなでた。
――今が一番。そうである。うちの子が一番可愛い。そんなフィルターが飼い主には存在していた。大抵は人間より先に寿命を迎える。だから六五歳以上になると犬を飼えなくなるのだ。ある意味厳しい現実だった。よその犬を可愛がる。無責任な様でいて、それなりに理由のわかる行為だった。
「わたしも以前、わんちゃんを飼っていたのですよ。もう、亡くなって五年ほどになるかしら。新たに飼えないから、知り合いの犬は出来る限り可愛がる様にしているの」
奧さんはそう言ってポチの頭をなでた。 了
最初のコメントを投稿しよう!