1.ジョン

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1.ジョン

 愛犬ジョンと暮らし始めて半年。毎日の散歩もわたしの生活習慣の一部となりつつあった。ジョンと暮らし始めるまでは気がつかなかったのだが、犬の散歩に出ることで犬を飼う人同士のつきあいが出来る。いわゆる犬友達ともいうべき顔見知りだ。   「やあ、どうも。今日は早いですねえ」 「やあゴンちゃん。今日は元気そうですねえ」 「プリンちゃんの調子はどうですか」  などと、お互いの愛犬の名前で呼び合い、声を掛けたり掛けられたりしてそこから話が始まるのだ。だから、人間には興味はなくひたすら犬を中心とした話になり、結局、親しくなった割には、相手がどこの人だか知らない場合もよくあることである。  そんなある日、犬を連れていない年配の男性に声をかけられた。 「可愛いワンちゃんですね。散歩ですか?」 「ええ、夕方の散歩です」  午前中の散歩はおじいちゃんが、夕方の散歩はわたしが連れて行っていた。町内を一周して公園で一服するというコースである。その男性は自治会の清掃担当の役員をしていると言い、公園の草むらのあちらこちらに落ちているフンの後始末がなされていないことを嘆いていた。 「日曜の清掃のたびに見つかるんですよ。別に普通のゴミと思えばいいんですけどね」 「わたしは、いつもちゃんと後始末していますよ。ほら」  わたしはポリ袋の入った小さめのバッグを見せた。 「袋を持つだけで、後始末しない人もおられるし、最初っから持ってもいない人も結構多いんです。この公園に落ちているフンの量から言ってもわかると思います」 「確かにねえ」  そんな飼い主が多いのも事実だが、わたしの犬友達にはそんな人に心当たりはなかった。みんなきちんとマナーを守る人たちだ。
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