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坊丸の問いに、力丸は壁にかけられたホワイトボードへと目をやる。そこには、毎朝、蘭丸がその日の予定を分かりやすく書き記していた。
本日の十三時の欄を確認すると、「月例報告会」と記されている。
これは、社長と各支部の長が一堂に会し、一ヶ月間のそれぞれの仕事の進捗状況を確認する会である。
「十三時からは、月例報告会のようです」
力丸の返答に、坊丸は腕を組み、顔を顰める。
「う〜ん。会議前に関係する人を呼べと言うことかと思ったけど、月例報告会では、支部長は全員該当するか……」
坊丸の唸り声を聞きながら、力丸は、手近にあった資料を手に取った。それは、近畿支部からの報告書のようだ。
近畿支部では、近々、大きな土地を買収する予定があり、報告書は、その進捗と今後の動きをフローチャート式に纏めたもののようだった。そのプロジェクトを一手に担っているのが、明智近畿支部長で、報告書にもその名が記されている。
明智支部長は、かなりのやり手らしく、社内には、明智派なる派閥が密かに存在していると実しやかに囁かれていたりする。それが事実かどうかは分からないが、その名を目にした力丸は、ある噂話を思い出していた。
「坊兄さん。織田社長が呼べと仰ったのは、明智支部長ではないでしょうか?」
「明智支部長? まぁ、会議があるのだから、今日は、本社へ来ているとは思うけど、何故そう思うんだい?」
坊丸は、突然、力丸が導き出した答えの理由を問う。
問われた力丸は、些か声を小さくして、数日前に耳にした話を口にした。
「数日前に、近畿支部の方から聞いた噂話なのですが……」
「噂話?」
「はい。明智支部長が、今回のプロジェクトの完了を待たずして、転職するのではないかと」
「転職? それは本当かい?」
「いえ。あくまで、噂話です。ですが、明智派の数人を引き連れて行くとか」
「なんとっ!? まさか、そんな事があるはずないだろう」
「しかし、火のないところに何とやらと言いますし……」
「それもそうか……。もしや、織田社長も、その話を小耳に挟まれて、会議の前に真偽を確かめようと……?」
「そうかも知れません!」
「よし、では、明智支部長に連絡だ」
結論に達した二人は、坊丸の号令で、力丸が内線電話の受話器を上げる。明智支部長の席の内線番号を押し、受話器の向こうでコールが鳴り始めた。
その時……
「いや、ちょっと待て」
坊丸の慌てた声に、力丸は、思わず受話器を置き、内線は切れてしまった。
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