デイリーアフターランニング

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2.女子高生  車列の前に並ぶタクシーが次々と、乗客を乗せて、目的地へと走り出して行く。  私はミラーへ視線を送り、車の付近を確認する。後方から女子高生が駆けてきているが、その他は特に問題はない。私は入念な安全確認の末、タクシーを車列の最前列へゆっくりと進めた。乗客の先頭は推察通り、シルバーカーを押したご婦人だ。私は車を停めると、急いで運転席を出る。車を回り込み、ご婦人へと声をかけながら、左後方のドアを開けた。 「お待たせいたしました。こちらのお荷物は、私が運ばせて頂きますので、お先に、車内へどうぞ」  ご婦人の手を取って、乗車の手助けをする。ご婦人の乗車が済み、残されたシルバーカーを、車内へ積み込もうと振り返ったちょうどその時、盛大な音が辺りに響いた。  突然のことに目を見張る私の目の前には、先ほど、ミラー越しに確認した女子高生と、ご婦人のシルバーカーが倒れている。どうやら、慌てた様子の女子高生がご婦人のシルバーカーに足を引っ掛け転んでしまったようだった。 「だ、大丈夫ですか?」  私は慌てて、女子高生を助け起こす。彼女は、すぐに立ち上がった。スカートやブレザーを軽く払う様子から、幸い大事には至らなかったのだと瞬時に判断し、私は胸を撫でおろした。ただ、一カ所、彼女は転んだ拍子に膝を擦りむいたようだった。  しかし、彼女は、傷を気にするそぶりも見せず、軽く頭を下げると、私が声をかける間もなく、スカートを翻し、一目散にその場を走り去ってしまった。  彼女の慌ただしさに、思わず呆然としてしまった私だったが、はたと気がつくと、まだ倒れたままだったご婦人のシルバーカーを起こした。盛大な音がした割には、こちらも、どこも壊れている様子はなく、無事だったので、軽く表面を払って、車内へ積み込む。 「大変申し訳ありません。お荷物を倒してしまいまして。こちらで確認した限りでは、破損等はしていないと思いますが、お荷物の中に、何か壊れやすい物などは、無かったでしょうか?」 「大丈夫よ。それに、あれは、あなたのせいじゃないでしょ」  ご婦人は、特に、気分を害した様子もなく、私の謝罪を柔和な笑顔で遮った。  そんなご婦人に一礼して、私は静かにドアを閉める。それから、急いで運転席へと回り込んだ。車に乗り込む前に、もう一度、女子高生の走り去っていった方へ目を向けてみたが、当然、彼女の姿はどこにもなかった。  一体、彼女は、何をそんなに急いでいたのだろうか。
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