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昭和天皇が崩御して、わたしの「予言」のひとつは当たった。改元されて「平成」の世になり、小渕恵三官房長官がその額を持ち、記者会見する様子がテレビで何度も流され、「平成おじさん」のあだ名がつけられた。
「もしかしたら、あんた本物なのかい?」
隣のベッドの男は尋ねた。
「ですから、何度も言っているでしょう? 本物です」
「じゃあさ。何か儲ける方法はないかい? この先十年か、二十年で」
「ふうむ。そうですねえ。アメリカのアップル社とマイクロソフト社の株を買っておいたら値上がりすると思いますよ」
「ええ! ただのパソコンとソフトの会社だろう?」
男は、わたしを笑った。まだ、パソコンもOSも一部マニアの趣味の世界のものだった。
そして1989年末になり最高潮だった株価が下向きに転じた。
バブルは絶頂期を過ぎたのだ。しかし、まだ不動産投機の嵐は続いていた。
それも91年から土地が下落を始め、93年にかけて本格的なバブル崩壊期を迎えた。
わたしはその間、未来の時代にいた頃の知識と情報で、株の売り買いをして収入を得て、不景気な中を何とかくぐり抜けた。まさに日本経済は暗黒の40年だった。
2025年10月。
わたしは大学の研究室を訪れた。
教授は少し驚いた顔をしていた。
「え? 君なのか?」
「お久しぶりです。横山先生」
「さっき飛ばしたばかりなのに?」
そう。この時間にさっき過去の時代に飛ばされたばかりだったのだ。そこに突如、年を取ったわたしが姿を現したのだ。
わたしは研究室の壁に掛かっていた鏡を見た。すっかり老け込んでいて、まるで退職前のサラリーマンのような姿になっていた。そして、この37年間の苦労を語った。
「ふうん。苦労したんだねえ。でも、この研究の成果が証明されたことになるんだ。君の貢献は大きいよ。うん。うん」
教授は何度もうなずき喜んでいた。
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