タイムトラベル

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 わたしがカプセルの中で目覚めたとき、周りには何人もの白衣を着た医師たちに取り囲まれていた。意識が混濁する中、彼らはわたしに呼びかけ、そして、質問を浴びせかけた。 「今日は何日かわかりますか?」 「あなたのお名前は?」 「ここがどこだかわかりますか?」  彼らの質問には、即座に答えられなかった。  わたしは実験物理学者の横山教授の作り出した巨大な電子加速器であるサイクロトロンの実験助手をしていた。粒子を光速間際にまで加速させ、反対側から飛んできた同じ粒子に衝突させて小型のブラックホールを発生させる。  これを応用したタイムマシンで数年前の過去の世界へと移動したのだった。実験が成功していればである。  これまでにも教授は素粒子を時間の異なる空間に移動させる実験を何度も成功させていた。このことで国際的な賞を何度も取った実績があった。もっとも、人体であるわたしを過去の世界に「飛ばした」のは初めてのことだった。この実験が成功したことを知る唯一の方法は、わたしがこの数年を生き残り、実験直前の教授の前に姿を見せて、その存在を認識させることが必要だった。もしかしたら、このカプセルにもう一度入り、ブラックホールを生成してもらえれば、また、数年の未来の世界――本来の現在の世界に戻ることも可能かと想像したが、過去の世界ではまだ地上にブラックホールを作れるほど科学は進歩していない模様だった。  この世界は一体西暦何年なのか、わたしにもすぐにはわからなかった。  医師たちに取り囲まれているときに、背後にカレンダーがかかっているのに気づいた。  1988年10月のものになっていた。わたしが「飛ばされた」とき、2025年だったからざっと37年前になる。 「もしかしたら、バブル景気の時代ですか?」  わたしは医師の一人に尋ねた。 「バブル? 景気? 一体何のことだい?」
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