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いつかはこんな日が来るとは思っていた。
犬の寿命は人間のそれよりも遥かに短い。だから、彼らは1分1秒でも、人から愛されたいのだ。
僕がいなくなって、ポロは気の遠くなる時間をずっと待っていたようなものだ。
そう思うと、また涙が出てきそうになった。
さすがに仕事にならなくて、翌日は有給を取得して、実家で過ごした。
でも、ポロがいなくても日常は過ぎていく。
1日休んだだけでも、仕事は溜まっていくので、忙しなく1日が終わり、また新しい1日が始まっていく。
ポロのことを思い出すことはあっても、もう涙は出なかった。
彼は僕の思い出として、心の中で生き続けている。そう思っていた。
「三野さん、大丈夫ですか?」
昼休憩前に、後輩の柏木さんが声を掛けてきた。
「最近、仕事中にぼうっとしたり、辛そうな顔してますけれど」
「そんな風に見える?」
「はい。とても」
新卒でこの旅行会社に入社し、僕のいる企画営業部に配属された柏木さんは、時々鋭いと感じることがあった。
「まあ、ちょっとね」
確かに、ポロのことで気持ちは落ちこんでしまっている。
しかし、それを後輩に悟られてしまうと思わなかった。
「・・・この間、実家で飼ってた犬が亡くなってね」
「えっ」
柏木さんに余計な心配をかけたくなくて、彼女には正直に話すことにした。
「出張が終わってすぐ実家に帰ったんだけど、間に合わなくて」
「・・・ごめんなさい。そうとは知らず」
「いや、いいんだ。僕の方こそ、ごめんね」
話したはいいものの、お互いに気まずくなって、僕は早めに昼食を取りに外へと出て行った。
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