君の背中

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昼休憩の後、課長に呼び出された。 仕事で何かやらかしたかと思ったが、どうやら有給をちゃんと消化してほしいと総務に言われてしまったとのことだった。 一応、5日分の有給は今年はもう取得している。しかし、昨今の働き方改革やコンプラ重視の世間の流れで、会社として8日は有給取得をするというノルマを設定していたらしい。 そういうわけで、あと3日の有給を早めに取るように言われた。 席に戻り、そのことをぼんやり考えていると、柏木さんが隣から小さな声で呼びかけてきた。 「三野さん、これ」 ホッチキスで留めた紙の束を差し出してくる。 「以前、うちの会社で企画立ててた旅行プランなんですけど」 流し読みしてみると、瀬戸内海の離島のツアーに関するものだった。「犬神の宿る神秘のパワースポット巡り」というテーマだった。 ありきたりなパワースポットの特集ではあったが、内容が犬にまつわるものばかりだった。 ペット同伴での旅行でピックアップしていたのだろう。 「さっき課長から有給取れって言われてましたよね。良ければ、ここに行ってみるのはどうですか?」 柏木さんなりに、僕に気を遣ってくれているのだろう。 「ありがとう」 思わず軽く噴き出して、僕は書類をファイルに挟んだ。 「そうだね。行ってみるよ」 これも何かの縁かもしれないと思い、僕は有給申請をすることにした。
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