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社から少し離れたところに、御神木があった。
少し奥の方に傾いていて、なだらかなカーブを描いて茂っている。
その隣には、絵馬を飾るように犬の首輪が掛かっている場所があった。
「ほら、まるでお犬が背中を向けて座ってるようだろ」
僕の隣で老人が御神木を見上げながら言った。
確かに、そう見えなくもない。
ポロもよく僕に背を向けて座ることが多かった。
「お犬は信頼している人には背中を向ける。なぜだか知ってっか?」
「無防備な背中を預けられるから、ですか?」
「それもあるがな。お犬は人を守ってるのよ」
老人はニタニタと笑いながら言った。
「いつだって傍にいて、あんたを守るってな。お犬は忠誠心が強くて何も言わない。でもそうやって背中で語ってるのよ」
ポロもそうだったのだろうか。
ふとポロのことを思い出そうとすると、柴犬がまた僕の足をトンと叩き、御神木の近くにベンチに視線を移した。
「座れ」ということか。
ベンチに座ると、御神木がちょうど背中を向ける形で眺められる。
ポロの首輪をバックパックから取り出してみた。
プレートにポロと名前の彫ってある首輪を、指でそっと擦ってみた。
なんでもっと、一緒にいてあげられなかったんだろう。
時間が限られているのはわかっていたのに。
思えば、ポロはいつだって僕の傍をついて離れなかった。
夜寝るときも、僕のベッドの横で丸まって眠っていた。
僕が風邪をひいてぐったりした時も、傍で背中を向けて座っていた。
ポロは、ずっと僕を守ってくれたんだ。
辛いこと、苦しいことがあっても、家に帰ればポロがいる。
そういう生活だった。でも、もはやその日々は失われた。
「ごめんな」
思わずそう呟いた。
ただ、傍にいてくれるだけでよかった。
それ以上は何も望まなかった。なのに、なんで僕は最後まで傍にいてあげなかったんだろう。
その時、膝に何かが触れる感触がした。
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