君の背中

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驚いて首輪から視線を逸らす。 しかし、そこにはなにもない。 「ポロ?」 なんとなく、膝を叩いたのがポロの気がした。 ポロはよく、僕が椅子に座っていると、膝を叩いて「乗せて」と催促してきた。 膝の上に空間を作ってやると、直後に何かが飛び乗る感触がした。 そして、確かに膝の上に温もりを感じる。 なにもないはずなのに、確かにそこに、ポロはいた。 恐る恐る手を伸ばし、ポロの背中を撫でるように空を掻いてみた。 「あんたにまた会いたかったのかもな」 離れたところで、柴犬と一緒に老人が僕を見て言った。 「これから安らかなところに行く前に、あんたと一緒に過ごしたかったんだろうよ」 老人の言葉が、僕の中で止まっていた気持ちを動かした。 堪えきれなくて、涙がポロポロと溢れてくる。 「ありがとうな」 涙で視界が曇りながらも、僕はポロの魂を撫でながら言った。 「ずっと一緒にいてくれて」 最後にこうして、またお前に会えてよかった。 しばらくそうして、ポロの魂を撫でていると、今度は首筋を舐められるような感触がした。 ポロが最後に、僕のことを好きだと言ってくれてる気がした。 「僕も大好きだよ」 お前が愛おしくてたまらない。ずっと一緒にいてほしかった。 しかし、そう願った僕の気持ちを悟ったのか、柴犬がやってきて、僕の膝をトンと叩いた。 わかってる。ポロはもう休まないと。 涙を袖で拭って、僕は立ち上がった。 最後に、こうして僕のもとに来てくれた。 会えて本当に良かった。 御神木を静かに眺めた後、僕は手を合わせて拝んだ。 風がまた静かに吹いて、落ち葉と僕の涙をさらっていった。
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