君の背中

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ここは愛犬を亡くした人が、ふとしたきっかけで来ることが多いそうだ。 そして、愛犬の首輪や玩具を御神木の近くに置いて帰っていく。 僕もそれに倣って、ポロの首輪をお供えした。 「ありがとうございました」 「俺は何もしてねえよ」 老人にお礼を言うと、彼は満足そうに笑って言った。 「あんたはお犬と縁で結ばれてきた。お犬もきっと喜んでるさ」 「ええ」 そこに柴犬が僕の足元に寄ってきて、足に体を擦り付けた後、前へと歩いていく。 「達者でな」 「はい」 老人に頭を下げ、鳥居をくぐってもう一度、社に頭を下げた。 ポロが安らかに幸せなところに行けるよう、もう一度願いを込めて。 お辞儀をしてから、来た道を下っていく。 その間も、柴犬が前を先導して歩いてくれた。 森の入口に着くと、柴犬は足を止めて、僕をじっと見上げた。 「お前もありがとうな」 柴犬の頭をそっと撫でて、僕は森を出ていく。 もう一度振り返ると、柴犬は僕を一瞥してから、また森の奥へと戻っていった。 そういえば、あの神社の狛犬は1匹だけだった。 もしかすると、もう1匹が、あの柴犬なのかもしない。 不思議なことがあったばかりだから、そんな幻想的な事を考えてみたりした。
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