後夜祭

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後夜祭

 その高校では初秋に行われる学園祭の最終日に、かつてのフォークダンス大会の伝統を今に伝えるというつまらない目的で、男女がダンスをするという後夜祭イベントが今も行われていた。  保護者からも生徒たちからも反対の声が多く寄せられたが、学校側の意向は変らなかった。曰く、『これは大人へと成長する際に身につけておくべき社交術の実習である』。  実際のところ、このイベントを楽しみにしている生徒も多かった。この機会だけは、ダンスに誘う事を名目に異性、同性を問わず声をかけ、親しくなるきっかけを持てるからだ。  もっとも、生活指導教員の眼が光っている為、下手な事は出来ない。様式に沿った振付で、時折手を触れたりしながら、踊って行く。言葉を交わすとしても、声高には出来ない。ただその距離感が、誰かと親しくなりたい者、なれる者にとってはありがたくもあった。  感染症の騒ぎも落ち着きを見せたその年、久々に学園祭でこのイベントが行われる事になった。卒業を控えた三年生にとっては初めてで最後の機会となる。
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