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決断
「九時位までなら、あそこで勉強してるから。今日も居るって、さっきLINE来た」
それが誰の事を言っているのか、美香にはすぐに分かった。律は、美香の気持ちを知っているのだった。
「律、あんたそれで良いの?」
不意に、少し強い口調でナナが言った。
「伝えといた方がいいって」
上体を起こしながら、律はナナの言葉に取り合わずに美香に言った。
「何言ってんの」
珍しく気色ばんでナナが言い募った。
「これは早瀬が決めることだろ」
静かな口調の律にナナは何も言葉を返せず、ただ美香に視線を移す。その瞳が、美香を初めて責めているような色を帯びた。その色に少し気圧されながら、それでも美香は、律にこくり、と頷いた。
安堵したように、律が肩から力を抜いた。同時にナナも、ため息のような笑みを見せた。
「言ってきな。あたし、先帰るから」
美香の肩にそっと、ナナが触れた。美香はその手の温もりを、頼もしく感じた。
「うん。行ってくる」
そこには元の、優しく自分を見守ってくれる、ナナがいた。
「律くん、ありがとう」
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