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後夜祭が行われるのは夕方の六時からだった。教室の窓際の席で、美香は独り、頬杖をついて校庭を眺めていた。大型の台風が過ぎ去って一気に秋めいたその日の夕陽は強い橙色で、まるで色づき始めた木々の黄色や赤を映しているかのように鮮明だった。
窓ガラスに映るその紅の線を、美香は細く長い指先で触れるかのようになぞってみた。ガラスは既に冷えはじめ、指先から心地よい温度が身体に伝わり、少し昂ぶった心を冷ますように思えた。
ふと見ると、校庭の端の方を須藤祐樹が鞄をぶらぶらとさせながら校門へと歩いて行く姿が視線に入った。
「あ、祐樹君……」
美香が思わず呟いた時、ナナが長い黒髪を翻しながら教室に駆け込んできた。
「美香。何してんの。もう皆集まってるよ」
ナナはくりっとした子ぎつねのような瞳を更に吊り上げて、おっとりと行動してしまう美香を促した。髪を手で背後にはらい、芝居じみた感じでため息をついて見せる。
「あ、うん」
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