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席を立ちながら、もう後夜祭に出る必要は無くなったのに、と美香は思う。祐樹はこういった行事が嫌いなのは、美香も知っていた。けれど最後の後夜祭には、ひょっとして出てくれるのではないかと、期待もしていた。
「アンタが来ないと、男子連中は納得しないんだからね。分かってる?」
そう言われても、自分ではぴんと来ない。「ナナだけで踊ってきなよ」
ぐずる美香の手を掴むと、ナナは美香を廊下に引っ張り出した。
「ぐずぐず言わない。悪い癖だよ?」
ナナの言う通りだとも美香は思う。はっきりしないまま、祐樹への想いだけを心の中で燻らせて、今日まで来てしまった。
ナナは社交的で、学内で後輩たちにも憧れられる存在だった。男子生徒も、女子生徒も、教師たちも彼女には一目置いている所があった。中学、高校と共に過ごせた事は美香にとって、とても幸運な事だった。自分が言いたい事を先に代弁してくれて、いつも美香を護るような振る舞いをしてくれた。今、こうして手を引かれて小走りに講堂に向かっている時間もいつか遠くなるのだと思うと、美香は恋情とは違う淡い切なさを、感じずにいられなかった。
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