二人の最後のクリスマス

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 やっと着いたアパート。  外観は古く、塗装も剥がれかけている場所が目立ち、お世辞にも良いところに住んでいるとは言えない。  しかし、このアパートの住み心地はとても良い。  ……少なくても、実家よりよっぽど良いと思う。  階段を登り、二階の一番奥の部屋に向かう。  ガチャ。  十二年開け続けたドアを今日も開ける。 「おかえり」  明るい部屋から、久しぶりに聞く言葉が聞こえた。 「あれ? いたの?」  そう言ってしまう。 「ああ……。まあ……」  彼は返事に困ってしまったようで、苦笑いを浮かべていた。  あ、今の言い方良くなかったな……。  そう思ったけど、言い放った言葉を訂正することは出来ず、私はコートを脱ぎ玄関のハンガーにかける。 「明日も早いんじゃないの?」  取り繕うと必死に話しかけるけど、余計に深みに嵌っているような気がした。 「まあな……」 「そう……」  長い沈黙に包まれた。  私は耐えきれず、着替えると理由をつけ部屋に戻りふっと考える。  ── いつから、こうなったのだろう?  彼は井上浩二。今年で同棲九年となる彼氏。  いや、彼氏と呼んで良いのか? それも分からなくなっていた。  私が帰って来た時、ただいまを言わないのはいつも返事がないからだ。  食事は毎日別々で、会社の昼だけでなく朝も夜も各々と食べるようになっており、最近は顔すら合わせる事も少なくなった。  彼の仕事はとにかく朝が早く、私が寝ている間に仕事に行き、帰った頃には寝ている。  逆に私は出勤時間が遅く、起きた時に彼はおらず、帰って来た時は明日に備えて寝ているのだ。  土日は、仕事のリズム通りの生活が染み付いてしまい、生活スタイルが違いから、あまり顔を合わさなくなった。  アパートも各々の部屋があり、互いの生活圏を侵害しない。  互いに二十九歳の働き盛りであり、こんなものだと思う。  部屋着に着替えて、夕ご飯を食べようと台所に戻ると彼はまだ居た。
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