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「どうしたの?」
「いや、別に。飯は?」
「食べてないの?」
「お前だよ」
「適当に食べるから」
私はそう言い、適当なレトルト食品をレンジで温める。
もう、作るのもめんどくさくなっていて、こうゆう簡易なものばかりになっていた。……昔は、色々と作ったりとかしていたんだけど……。
使わなくなった調理器具を見つめていると、食事が温まり一人食べる。
浩二はそんな姿を黙って見ており、何を話すわけでもない。
「何?」
「いや」
また沈黙が訪れる。
もう、何を話していいのかも分からなくなっていた。
浩二は私をチラッと見ては、目を逸して壁を見たり、かけてあるカレンダーを見ている。
私は落ち着かず、慌てて食事をし片付けを始める。
本当に、いつからこうなってしまったのだろう ……。
すると浩二が立ち上がり、冷蔵庫を開ける。
「これ」
その言葉と共に、一つのパックを私に差し出してくる。その中には苺のショートケーキが二切れ入っていた。
「え?」
「スーパーのだが」
「買ってくれたの?」
「ああ」
「私は何も用意してないけど」
「いいよ」
私は片付けを終わらせ、二人分のコーヒーを結婚式の引き出物でもらったコーヒーメーカーで淹れ、一緒にケーキを食べる。
懐かしいな。前は一緒に食べていた。顔を見合わせ、美味しいと喜んでいたな。
あの頃はお互いにお金がなくて、外でクリスマスツリーやイルミネーションを見て、スーパーで買ったケーキを食べる。そんなクリスマスだった。
社会人になって、お金を稼げるようになったら、クリスマスディナーに行こうと約束していた。
しかし、その約束はいまだに果たせていない。お金は充分に稼げるようになったのに、どうしてだろう?
私は浩二をチラッと見る。
いつも部屋着なのに、今日はしっかりとしたジャケット着ていた。
私は自身を見て、適当な部屋着にカーデガンだったことを少し後悔した。
「アパートの更新だって」
浩二はそう言って、封筒を渡してくれる。
「あ、うん 書いておく」
私は封筒を見て思う。
ここに暮らして十二年。浩二とは九年か……。
住み始めた時は、学生色だった部屋が今ではすっかり社会人の部屋となっており、本棚に置いてあるものは教科書から仕事関係の資格取得の為の参考書になっていた。
そして私は部屋に帰ってきてから、なんとなく感じていた違和感に気付く。
部屋が綺麗になっていた。
浩二の参考書が棚から全て無くなっており、共同スペースに置いてあった物もない。
それだけではなく、溜まっていた埃を落とし、掃除機かけをしてくれ、拭き掃除までしてくれたのだろう。
「片付けてくれたの?」
「まあ」
「年末だもんね。ありがとう」
「ああ」
また、会話が終わる。
私達は今までどんな話をしてきたのだろう? あの頃は会話が途切れる事なんてなく、よく一緒にいて、バイトや課題がない日は一晩中色々な話をした。
今考えると、つまらない話。でも今は、あの時には絶対に戻れず、今では絶対取り戻せない時間だとも思う。
「あのさ」
「何?」
「だから」
今日はどうしたのだろうか? 何とも言えない歯切れの悪さ、まるで喉に何かが引っかかったような、なんともいえない表情をしている。
カチカチカチカチ。
時計の秒針の音だけが、時を静かに刻んでいる。
それが一周したぐらいに、ようやく浩二はその言葉を口にした。
「この関係、終わりにしないか……?」
「……え」
私は、ケーキに向けていた視線を浩二に向ける。
その表情は固く、強い眼差しで私を見ていて、決意に満ちていると分かった。
頭が真っ白になるとは、このことを言うのだろうか?
あまりにも突然で、あまりにも想定していなくて、あまりにも心臓の鼓動がうるさくて私は……。
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