二人の最後のクリスマス

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 駅の改札から出てくると、そこは一面金色の光に包まれていた。美しく幻想的な空間に、思わず一言声が漏れてしまったようだ。 「はぁ、結婚したい ……」  溜息を吐きながら嘆き、その白い吐息が空に浮かんでは消えていく。  それを追って見上げた空は、雪が降る前の前兆とされる暗い灰色の雲、乱層雲に覆われていた。  天気予報ではクリスマス寒波と言われていて、今日の夜より初雪が降るとされている。  今日は、十二月二十五日、月曜日。  昨日が日曜日のクリスマスイブだった為、彼とデートをしプロポーズを期待していたみたいだけど、そうはならなかったと職場の同期が嘆いていた。 「私達二十九だよ。そろそろ期待するじゃない? 愛子はどうなの?」 「ないない」  私は軽い口調で否定する。 「結婚したくないの?」 「うん、今のままで良いかな?」 「さすが! 同棲の余裕だね」 「理恵も彼と一緒に暮らしたいなら、同棲してみたいと言ってみたら?」 「違うよー。私は結婚したいの!」 「えー? どう違うの?」  純粋な疑問をぶつける。 「全然違うよ! 結婚って言うのは……!」 「ほら、家着いたよ。続きは明日」 「明日聞いてよねー!」  そう言いながら、同僚の理恵は住宅街にある一軒家に帰って行く。  私はそんな姿を見送り、また歩き出す。  私の住むアパートは、あと二十分程歩く。  都心の住宅街にアパートを借りると家賃が高い為、駅から遠くの立地は悪いが安くて広い場所を借りている。  住宅街を抜けると街灯は減り、暗い道となる。  そこを一人で歩きながら、不意に考えてしまう。  どうしてみんな結婚したいのかを……。  他の同僚も、よく「結婚したい」と言うけど、一緒に暮らすのではダメなのだろうか? 同棲と結婚はどう違うのか? 私にはやはり分からない事だった。  ゴロゴロゴロゴロ。  空から不吉な音がする。  おそらく雪鳴らしだろう。私は雪が降る前にアパートに帰りたいので、その歩を早める。
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