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―――――朝8時半。
社長室のドアをノックする。
「失礼します、小春で……」
ガチャッ
「 なんだお前か……」
えー、朝から不機嫌。
素早くドアを開けてくれたのは夢蔵社長お義兄さんだったが、私を見るなり落胆したご様子。
ドアを開けっぱなしですぐに背を向けて、応接用のソファにドガッと座って足を組んだ。
入室しドアを閉めて中を見渡すと社長だけのようで、お義姉さんに会いたくて来たのだけれど見当たらない。
咲月お義姉さんは夢蔵社長と結婚し、千馬興産の秘書として社員になった。
牧さんのもとで業務に携わっている。
咲月さんの秘書姿は様になっていて、牧さんに似ているともっぱらの噂。
仕事が早く生真面目で気配りのできる女性。
細身のパンツスタイル、長い黒髪をひとつに結び眼鏡をかけたスマートな容姿。
社長夫人ながら控えめで気立てが良く、社員からの評判も高い。
自慢のお義姉さん!私も精進しなければ!!
また、お義母さんであり千馬雅CEOの補佐にも抜擢された。
CEOが咲月さんの能力を評価しての御指名とか。
新しい事業も計画にあがっている決算期。
新年度に向けて変化が起こる時でもあるのだけれど…
「咲月さんが朝は社長室にいると言っていた
ので伺ったんですが…」
「そろそろ戻ってくる…」
社長はイライラしているのか足を揺すりながら答えた。
なんか、面倒くさそう〜。
心でつぶやくと、ちょうど仰っしゃる通りにドアが開いて咲月さんが現れた。
「あ、咲月さ…!?」
「咲月!!」
私はドア付近に立っていたので声をかけた、ところへ社長が割って入って来る。
早っ!
咲月さんの両肩を支えゆっくりソファに座らせると、自分も隣に座って心配そうに顔を覗きこむ。
「大丈夫か?」
「ええ…。小春さん、どうぞ座って」
私も社長同様に心配で、隣に座り近くで顔色を確認する。
華奢な体が一層ゲッソリして見える。
少し青ざめた顔の口元にハンカチをあてて、咲月さんは私に優しく微笑んだ。
つらそうでどうしていいものか、私も困った笑顔でお返しする。
咲月さんは妊娠8週目。
悪阻がひどく嘔吐が止まらないのだそう。
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