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* Musashi secret episode *
義妹が咲月に持ってきた漢方をティーカップに入れお湯を注いでお茶にしてみる。
ソファで悪阻を耐えている我妻と俺の毒味用に2つテーブルに置いた。
「……美味い。飲んでみて」
「……本当に。おいしいわ」
って、何で俺が味わってるんだ!
しかもスッキリして効いてるじゃないかっ。
「咲月、やっぱり仕事は休まないか?」
「何度も言ったでしょ?今日はCEOの
商談後に税理士と打合せあるから」
俺は隣に座る咲月の手をとって両手で包み切実に願った。
しかし、眼鏡から覗く虚ろな目ではね返されてしまう。
「悪阻だって馬鹿にできないだろ?
酷いと入院する場合もあるそうじゃないか」
「夢蔵こそ、もらい悪阻は鬱なんだから
心療内科で一度診てもらったら?」
「いや、それよりお前が……
心配なんだ、咲月とお腹の子が」
「私のせいで夢蔵が苦しいなら……
しばらく実家に帰ろうかしら?」
「それはダメだっ!
咲月がいないともっと狂いそうだよ…
何処にも、行かないで?」
「夢蔵…」
どうしてこんなふうに…
何やってるんだ、俺は!
自分に呆れかえり、みっともない顔を隠すように額に手をついた。
うなだれる俺を咲月がそっと両腕で包んで抱いてくれて…
心が落ち着きを取り戻す。
俺は縋るように咲月の体に腕を絡め、ズルズルとソファから滑り落ちる。
床に膝をつき小さくなると、咲月の腹に顔を埋めて抱きついた。
こんな小さな体に細い腰で出産ができるのか?
子を授かった歓びも束の間に、母体に悪阻が始まると心配で心配で。
代われるものなら俺が!
と案じていたら……俺にも偽悪阻が始まった。
情けない話だ。
精神的不安定をキメ込んで感情が乱高下する。
人生で、一番今が……カッコわりぃ。
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