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「やります…やらせてください。ですが…」
「何か懸念が?」
「もうこれ以上割ける予算はないかと思います。専門家を招くにしても、子供たちの学校を建てるにしても、少なくとも今年度は着手できないのでは…」
「ジーナ、個人資産て知ってるか?」
「え?はい、領地の資産とは別に個人で管理している資産です…あ、なるほど個人資産という手もあるんですね!でも私にはほとんど資産はありません…」
幽閉されていたレジーナに個人資産などあるわけがない。その上死亡したことになっている彼女に、両親が何か残すわけなどなかった。
今の彼女の個人資産と言えば、養子先が用意してくれた他よりやや見劣りしてしまう額の資金で、それでも彼女には贅沢だと思えた。
彼女にかかる質素なドレスや控えめなアクセサリーの費用を始め、生活費や邸宅にいる少人数の使用人の給与などはそこから出されている。
「あるんだよ、君にも。それに俺も半分出そう。俺と君の記念事業なんてどう?」
「え、どこにそんな資産が…」
「君に本来かけられるべきだった10年分の予算、マリアンネにかけた実際の金額をそっくりそのまま払わせた。まあやったのは父上だが」
10年分がどれくらいの額になるのか、経理が分かって来たレジーナでもぱっと想像できない。姉はかなり贅沢をしていたようだが、一体いくら使ったのだろうか。
「大丈夫、小さな学校くらいだったら3つくらいは建つ。細かい計算は後でしてもらうとして、運営も数年は持つだろう。勿論限界はあるから、個人で賄うのではなく自立した方法をきちんと考えないといけないがな」
「やります、やらせてください!」
さっきと同じセリフを、今度は希望に満ちた声でもう1度言った。
「では決まりだな。話し合いの予定は今度スケジュールに組み込んでおく。さあそろそろ戻ろう。次の予定が押しているはずだ」
帰りの馬車の中、話し合いが待てないレジーナは夢をあれこれ語った。
夢の割にはとても現実的で、夢中で話す彼女の横顔をルートヴィッヒは頼もしい気持ちで眺めた。
この領地を初めてレジーナと踏んだ時、こんな未来が近くにあるとは思いもしなかった。
目の回るような忙しい日々も、楽しいとすら感じるのは共に目標に向かえるパートナーがいるからかもしれない。
「ルト様、ありがとうございます」
「ん?」
「私にこんな未来があるとは思ってもみませんでした。でも今の私がここにいるのは、間違いなくルト様のお陰です」
夢を語って少し興奮した面持ちのレジーナが、隣りに座るルートヴィッヒを見上げて言う。
自分と似たような事を言うのだなと思うと、愛おしさが膨れた。
落成式の出席のために、今日の彼女は髪をしっかり結い上げ、デビュタントの時に贈ったダイヤとルビーのアクセサリーをしている。
文官のジャケットではなく、いつもより少し高価なドレスを纏ったレジーナは、もう“可愛い”ではなく“美しい”だと思った。
「俺も…君がいてくれてよかった。ありがとう、ジーナ」
そのまま自然と顔を寄せ合い、揺れる馬車の中で重ねるだけのキスを交わした。
そしてはにかんだまま肩にしなだれかかる。これは“可愛い”という表現で合っているだろう。手を握り指を絡ませると、彼女もきゅっとその手に力を入れたのが、益々可愛い。
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