21 忙殺の日々、煩悩の王子

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 事件のあったクンストドルフ伯爵領は王領となった後、現在はクラインシュタット伯爵領としてルートヴィッヒが統治していた。  2年後には弟が領主となるが、それまでに旧伯爵が私物化した組織を立て直し、ヴァイセ・フェーを正取引にするよう黒い部分を断ち切る。不正に搾取された領民の生活を戻すためにレジーナと共に日々奮闘していた。  レジーナはルートヴィッヒの伯父方の親族の養子となり、今はレジーナ・フォン・ローエンシュタイン伯爵令嬢を名乗っている。高齢の伯爵夫妻は孫が出来たと喜んでいたそうだが、レジーナもまた家族が増えたと喜んでいた。  彼女は正式に婚約した後は新クラインシュタット伯爵領内に邸宅を与えられたが、仕事が忙しく城内に留まることも多かった。  ルートヴィッヒが領主になると共にレジーナも伯爵領に来たが、それまでも、それからもずっと勉強を重ね、今は領地経営を学びながらルートヴィッヒの補佐をしている。  物覚えのいい彼女は、減らない執務に忙殺されるルートヴィッヒが見落としそうな部分を的確に拾い、仕事とプライベートの両方で良きパートナーとなっていた。 「それじゃあ俺たちの作品が不正に扱われることはもうないんだな?」 「ええ、ご安心下さい。今ルートヴィッヒ殿下は、過去の闇取引を断ち切り正規の取引に戻すべく尽力してらっしゃいます。でも実際に工房を始動させたときに不都合が出たらすぐに言ってください。皆さんと一緒に伝統を守り育む方法を考えますので」  レジーナが説明の最後にそう付け足すと、職人たちは幾分安心したのか、表情が穏やかになった。  新領主がやって来るとまた緊張した面持ちになったが、王家の管理人がいながら不正を見抜けなかったどころか加担していたことを謝罪され、その上で正当な工房運営がなされることを約束されると、彼らも円滑な運営となるよう協力すると言ってくれた。  その後説明をしてくれた婚約者と仲睦まじく帰る様子は、別の意味で彼らの表情をより柔らかくした。  昼食は共にしたがすぐに部下に呼ばれ席を立ったルートヴィッヒとは結局夜まで私的な時間を取ることはできず、レジーナはやりがいの一方で少しだけ寂しく感じた。  まだ婚約者である以上、過剰にルートヴィッヒと接触することはあまりよろしくない。  今日も夜まで仕事をしていたレジーナは、城内の一室で寝支度を整えたあと窓を開け夜空を眺めていた。  ルートヴィッヒは近くにいるのに、とても遠く感じる。  少しだけでいいから、あの力強い腕で抱きしめて欲しかった。  できれば撫でて「今日もよく頑張った」と言って欲しかったし、さらに言えば優しいキスだってして欲しい。    すっかり欲張りになった自分に笑うと、窓を閉めようと立ち上がった。  取っ手を掴んだ手が外から押さえられ、びっくりして見上げるとそこには会いたかった人物が浮いていた。 「ルト様…窓からいらしたのですか!?」 「静かに。こんな時分に大っぴらに寝所を訪ねるわけにもいかないからな」  そう言うと部屋に入り窓を閉めた。  すぐに振り返ると、柔らかなレジーナの体を抱きしめる。  彼女のお気に入りの香油が香る髪に顔をうずめ空気を胸に吸い込むと、体の中もレジーナで満たされる気がした。  くすぐったがって身をよじる彼女をさらに強い力で閉じ込め、体の自由を奪った。 「ん…ルト様、ちょっと痛いです」 「じゃあ逃げないで。俺にもっとジーナを堪能させてくれ」  さらりと恥ずかしいことを言うと、彼はおでこを突き合せてきた。 「キス、いい?」  返事をするのが恥ずかしいレジーナは、目を閉じることで返事の代わりにした。
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