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22 私が掴もうとする未来、王子が掴んだ未来
新工房の落成式の日、式典が終わり新たな意欲に沸く職人を眺めながら、レジーナはある思いをルートヴィッヒに告げた。
「ルト様…私気になることがあるんです」
「なんだ?」
「一緒に旅をしていた時の、あの寒村の子供たち…ここにいると、どうしても彼らのその後が気になってしまうんです」
かつてルートヴィッヒに連れられ寒村を訪れた時、彼女は制止も聞かず路地裏の子供たちに声をかけた。
彼らは空腹で、レジーナたちに物乞いをしてきた。
所持している物でその場を助けることはできても、根本解決にはならないことをその時にルートヴィッヒに教わったのだ。
「一時的な支援は出したが、現状末端まで届いているとは言い難い。特にあの村は大人の数が減ってしまったし、他の地域にもそういう場所はある。偉そうなことは言ったが、俺も根本解決までは手が回っていないのは事実だ」
前伯爵が私服を肥やすために領内に残した爪痕は、思ったよりも深刻だった。潤っているのは都市部だけで、郊外はまるで放置されていた。
領地の予算をギリギリまで支援に回すだけでなく、その時に甘い汁を吸った商人には無担保、無利子での資金提供を命じた。だが来年度までに安定させられるかと言われれば、自分でも疑問だった。
「あの子たちを保護できる何かがあれば良いのですが…」
「そうだな。それにこのままだと彼らの生活水準は落ちたままになる可能性が高い。教育が行き届かないと、収入は低くなる傾向にある」
「子供たちに勉強を教え、手に職を付けさせるような機関は作れないのでしょうか。ここならヴァイセ・フェーの職人養成もできますし、農地の改良や生産性の向上のために専門家を招いたり、あとはそれら農作物で二次産業なども…あ、コピー品を作らされていた職人さんたちで、新しい産業はできないでしょうか?ヴァイセ・フェーの技術を生かした量産品で、中流階層を狙った商品づくりとか…」
顎に手を当て、何かを思い描くように宙を見ながら次々とアイデアを出すレジーナ。
そのまま実行はできないにしろ、検討するには十分な発想に、ルートヴィッヒだけでなく控えていた文官まで真剣な面持ちになる。
「あの、私無謀なことを言いましたでしょうか…」
「いや、そんなことはない。出来るか出来ないかは別として、そうやって発想をするのは大事なことだ。それにまるっきり荒唐無稽というわけでもない。いつそんなことを考えていたんだ?」
「職人の方々とお話しした時や、出入りしている商人とお話しをした時に…」
「本当に君の成長にはいつも驚かされる…俺の補佐だなんてもったいない。専門家でもなんでも招くから、君主体で何か立ち上げてみないか?」
ルートヴィッヒは忙しくメモを取り始めた文官の横で、レジーナに思い切った提案をした。
「私がですか?私が…それはルト様の助けや領民の助けになりますか?」
「ならないわけないだろう。やり方次第では、君のアイデアは領民を助けるだけでなく新たな領地経営のモデルになるかもしれない」
「私が助ける…私でも誰かを助けられるんですね」
「そうだ。あの時の僅かな食料の施しとは違う。今の君には大多数を助ける力がある」
レジーナの目が、プレッツェルがドラゴンになった時のように強い意志を宿した。
キリッとした目つきは、いつものふんわりした幼さを漂わせる彼女の表情とは違う。
人の上に立つ資格のある、決意と誠意を込めた眼差しだった。
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