22 私が掴もうとする未来、王子が掴んだ未来

3/4
前へ
/109ページ
次へ
「ところで、なんの記念なのですか?」 「事業のことか?んー、なんだろな、別に意味があったわけではないが、君との初めての共同作業かと思うと記念だと思ってしまった」  いつも無意味な言動などしなさそうなルートヴィッヒが、意味もなく記念と思ってくれたのが、なんだかくすぐったい。彼もそんな風に思うことがあるとは。 「ルト様、なんだか可愛いです」 「俺が?可愛いのは君だろう?」 「だって私と一緒に何かをするのを記念と思ってくれたのですよね?私なんだか、胸がきゅってしてしまいました」 「ほら、やっぱり可愛い」 「る、ルト様だって…」 「可愛いって言われて喜ぶ男はいない。まあ俺は君が評価してくれるならなんだって嬉しいけど」  レジーナはいつも可愛いと言われる度に舞い上がる思いなのに、変わらず飄々としてるルートヴィッヒが少し憎たらしく思えた。  ちょっとやり返してやりたい、と思った彼女は、唐突にぐっと顔を寄せた。 「なに?」 「ルト様、素敵です。今日の礼服もとてもかっこいいです。目はルビーみたいに輝いているし、髪だって赤いビロードみたい。お顔立ちも整ってらっしゃって、知的な表情で、唇は形が良くて柔らかくてあったかくて、この手だってなんでも掴めてしまう強さがあるのに優しくて、全部好きです。大好きです…ほんとに、ずっとくっついていたいくらい好きで…お城に一緒にいるのに、会えなくて寂しいです…」  ルートヴィッヒに照れてもらおうとしたのに、最後は結局自分の気持ちになってしまった。  寂しいだなんて言うべきではないだろうに、彼の好きな所を述べていたら溢れた思いが止まらなくなった。 「ジーナ…」  ルートヴィッヒは名前だけ呼ぶと、すぐに唇を重ねた。  重ねるだけではなく、強引に割った唇に舌を滑り込ませ、それはキスと言うより貪り喰うという表現に近かった。  今までしたキスとは全く違う彼の様子に驚いたレジーナが身を引くと、そのまま追いかけるようにシートに押し倒す。  隙間を開けることなく塞がれた唇は、あっけないほど簡単に舌の侵入を許してしまうと、口内を蹂躙された。 「んっ…ふっ……」  言葉を発することを許されず、漏れる声は鼻にかかったような甘ったるい音にしかならない。  呼吸を求めて口を開ければ、さらに好き勝手に舌が暴れた。 「ジーナが悪い。俺がどれだけ毎晩我慢しているかわかっているのか?」 「がまん…?」 「君としたくて仕方ないんだ…同じ城にいて、手の届く所にいて、それができないのがもどかしい…君は日々綺麗になっていくし、俺ももう限界だ…」  泣き言のようにそう告げるルートヴィッヒの力は相変わらず強くて、激しいキスで思考力が落ち、抵抗する気力もなくなったレジーナにはどうしたらいいのかわからない。 「このまま奪っていいか?」 「うばう…?」 「閨事は流石に習ったろう?欲しいんだ、君の体が。全部…最後まで欲しい…」 「あっ…」  ルートヴィッヒの頭がレジーナの首筋に埋まり、柔らかな皮膚を吸い上げ、そして舐めた。  表現できない感覚が首から全身に広がり、なぜか甘い声が漏れてしまった。  背中に感じる狭い馬車のシートが、ゴトゴトと道の感触を伝えてくる。 ルートヴィッヒの唇が別の場所を探り当てた時、それが止まった。 「ルートヴィッヒ殿下、到着いたしました」  外から御者の声がかかる。  戸口の前にはもう従者が待機しているだろう。 「すまない…驚かせた」  ルートヴィッヒは身を起こすと、すぐにレジーナも起こし乱れた着衣を直してやった。  何が起きたのかわからない様子の彼女の後ろで扉が開くと、ルートヴィッヒは何事もなかったかのようにレジーナの手を引いた。
/109ページ

最初のコメントを投稿しよう!

56人が本棚に入れています
本棚に追加