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「ところで、なんの記念なのですか?」
「事業のことか?んー、なんだろな、別に意味があったわけではないが、君との初めての共同作業かと思うと記念だと思ってしまった」
いつも無意味な言動などしなさそうなルートヴィッヒが、意味もなく記念と思ってくれたのが、なんだかくすぐったい。彼もそんな風に思うことがあるとは。
「ルト様、なんだか可愛いです」
「俺が?可愛いのは君だろう?」
「だって私と一緒に何かをするのを記念と思ってくれたのですよね?私なんだか、胸がきゅってしてしまいました」
「ほら、やっぱり可愛い」
「る、ルト様だって…」
「可愛いって言われて喜ぶ男はいない。まあ俺は君が評価してくれるならなんだって嬉しいけど」
レジーナはいつも可愛いと言われる度に舞い上がる思いなのに、変わらず飄々としてるルートヴィッヒが少し憎たらしく思えた。
ちょっとやり返してやりたい、と思った彼女は、唐突にぐっと顔を寄せた。
「なに?」
「ルト様、素敵です。今日の礼服もとてもかっこいいです。目はルビーみたいに輝いているし、髪だって赤いビロードみたい。お顔立ちも整ってらっしゃって、知的な表情で、唇は形が良くて柔らかくてあったかくて、この手だってなんでも掴めてしまう強さがあるのに優しくて、全部好きです。大好きです…ほんとに、ずっとくっついていたいくらい好きで…お城に一緒にいるのに、会えなくて寂しいです…」
ルートヴィッヒに照れてもらおうとしたのに、最後は結局自分の気持ちになってしまった。
寂しいだなんて言うべきではないだろうに、彼の好きな所を述べていたら溢れた思いが止まらなくなった。
「ジーナ…」
ルートヴィッヒは名前だけ呼ぶと、すぐに唇を重ねた。
重ねるだけではなく、強引に割った唇に舌を滑り込ませ、それはキスと言うより貪り喰うという表現に近かった。
今までしたキスとは全く違う彼の様子に驚いたレジーナが身を引くと、そのまま追いかけるようにシートに押し倒す。
隙間を開けることなく塞がれた唇は、あっけないほど簡単に舌の侵入を許してしまうと、口内を蹂躙された。
「んっ…ふっ……」
言葉を発することを許されず、漏れる声は鼻にかかったような甘ったるい音にしかならない。
呼吸を求めて口を開ければ、さらに好き勝手に舌が暴れた。
「ジーナが悪い。俺がどれだけ毎晩我慢しているかわかっているのか?」
「がまん…?」
「君としたくて仕方ないんだ…同じ城にいて、手の届く所にいて、それができないのがもどかしい…君は日々綺麗になっていくし、俺ももう限界だ…」
泣き言のようにそう告げるルートヴィッヒの力は相変わらず強くて、激しいキスで思考力が落ち、抵抗する気力もなくなったレジーナにはどうしたらいいのかわからない。
「このまま奪っていいか?」
「うばう…?」
「閨事は流石に習ったろう?欲しいんだ、君の体が。全部…最後まで欲しい…」
「あっ…」
ルートヴィッヒの頭がレジーナの首筋に埋まり、柔らかな皮膚を吸い上げ、そして舐めた。
表現できない感覚が首から全身に広がり、なぜか甘い声が漏れてしまった。
背中に感じる狭い馬車のシートが、ゴトゴトと道の感触を伝えてくる。
ルートヴィッヒの唇が別の場所を探り当てた時、それが止まった。
「ルートヴィッヒ殿下、到着いたしました」
外から御者の声がかかる。
戸口の前にはもう従者が待機しているだろう。
「すまない…驚かせた」
ルートヴィッヒは身を起こすと、すぐにレジーナも起こし乱れた着衣を直してやった。
何が起きたのかわからない様子の彼女の後ろで扉が開くと、ルートヴィッヒは何事もなかったかのようにレジーナの手を引いた。
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