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「決めた」
「何をお決めになったのですか?」
「父上に直訴する。婚期を早めてもらう」
歩みながら言葉を続けた彼は、城内に入るとレジーナを振り返った。
「嫌か?」
ジーナが首をふるふると横に振る。
嫌なわけない。
嫌なわけないが、そんなこと許されるのだろうか。
そして突然、ルートヴィッヒが床に跪き、レジーナの手を取った。
「レジーナ・フォン・ローエンシュタイン伯爵令嬢。貴女にこんなにも恋をする愚かな男に慈悲を。貴女を守り、貴女を幸せにすると誓う。残りの人生全てを私と歩んで欲しい。どうか結婚してくれないだろうか」
城の入り口で突然始まったプロポーズに、レジーナは勿論のこと、衛兵は槍を落としそうになり、何事か伺っていたメイドはあんぐりと口を開け、後ろから付いてきていた文官は書類をばらまいた。
レジーナは片手で口を押さえたまま固まっている。
ルートヴィッヒは強い眼差しで彼女の瞳を捕らえたまま、同じ姿勢で答えを待った。
答えなければ。
答えなければ。
はいと言わなければ。
わかっているが、驚きに勝る喜び、そして混乱が喉を塞いでしまったかのように声が出ない。
『ジーナなにしてるの!早く!早くハイって!』
『……っ』
『あーもう見てられないよ!』
固唾を飲んで見守り全てが凍り付いたような空間に、炎が現れた。
それは小さくやんちゃなドラゴンで、レジーナから飛び出すと彼女の後ろに回り、なんと背中を蹴っ飛ばした。
「…っ!?」
「…っ!!」
蹴飛ばされたレジーナはよろめき、そのままルートヴィッヒの胸に抱かれた。
『ハイだよ!ルト聞いてハイだよ!!』
プレッツェルの懸命な叫びなど聞こえないのだが、意図を察したルートヴィッヒは腕の中のレジーナに「“はい”は?」と聞いた。
「はい…」
やっとレジーナが答えると、2人を見守る周囲の者から盛大な拍手と歓声が上がった。
婚約者とは言え、それは国王や他に役人もいる前で交わした書類のこと。
こうもはっきりと、結婚を乞うための言葉を並べたてられたのは初めてだ。
騒動に気づいた使用人や臣下が続々集まって来ると、割れんばかりの拍手と歓声、時々冷やかしの声が響いた。
その中心で、小型のドラゴンは宙で踊るように飛び、今しがた結婚を誓った若い2人は口づけを交わしていた。
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