57人が本棚に入れています
本棚に追加
2 鉄格子のはまる窓
レジーナが10年目の脱走を叶えたその日、実はこの屋敷に珍客が来ていた。
珍客と言ってはあまりに失礼なその人とは、この国シュトラルバッハ王国の王子、ルートヴィッヒ・フォン・シュトラルバッハだった。
彼は約2年前、王室男児の通過儀礼である「旅立ちの儀」に出立し、諸国を渡り歩いていた。
彼は第一王子であり順当にいけば王位継承権も第一位だが、この旅立ちの儀の結果によってはその順位など保証されない。
王家の男子として生まれたものは、16歳になると1人で旅立ち、その身を自分で立てなければならない。国を2年間自分の目で見て歩き、諸侯の領土を抜き打ちで尋ねることで謀反や不正を押さえる狙いもある。
つまり王子にはその眼力も求められるわけだ。
守護精がそれほど強力でない場合は二人までお供をつけることも許されたが、彼は伝説級のドラゴンを宿している。ついでに言うと第二王子である弟は鷲を宿しており、兄と入れ替わるように出立する際は恐らく供を連れて旅立つと思われた。
ゼーレンベルク領に入った彼は、自分の噂が立たないうちに侯爵邸を訪ねた。身分を隠していても、いつの間にか気づかれてしまうこともあるからだ。
王宮で学習した時はこの領地に特に不振な点はなく、納税はされているし、その数字も不思議な所はなかった。
領民が苦しんでいるなどの話も聞いたことはないが、それはこれから自分の足で確かめればわかるだろう。
ただ1つだけ懸念がある。
守護降ろしの儀以来表だって話題に出ることがなくなった下の娘だ。
報告では病気のためとあったが、自分の婚約者候補の1人となった姉のマリアンネがやたらと王宮に顔を出すことはあっても妹の話を聞くことはなかった。
今年16歳になっているはずの妹は、デビュタントは出られたのだろうか。
守護精は資料によればフレイムリザード。
令嬢が連れて歩くには悪目立ちするが、ヨロイトカゲのような外見の通り宿れば強い生命力を発揮する。
病弱と言うのがにわかには信じられなかった。
「もし行くようなら、それとなく様子を見てはくれないでしょうか」
ルートヴィッヒが出立する前、彼の母である王妃はそう言った。
今は社交シーズン中。
侯爵とマリアンネは王都のタウンハウスの方で過ごしているはずだ。
抜き打ちの意味が強いので先触れなどは勿論出さない。
彼は午後のお茶も終わろうかという時間に侯爵邸の門前に立った。
最初のコメントを投稿しよう!