2 鉄格子のはまる窓

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「ルートヴィッヒ・フォン・シュトラルバッハだ。突然の訪問ではあるが旅立ちの儀に倣ってゼーレンベルク侯爵領を検めたい」  門番は寝耳に水の王子の訪問に驚いたが、王子が旅立ちの儀に出立したのは当然知っている。いつかこういう日が来るとは思っていたが、ついにその日が来たのだ。  門番に馬を引かれ正面玄関へと続く道を進む。  周囲を見渡すが、よく手入れされた庭木に、掃除の行き届いた玄関口。特に不審な点はないまま屋敷に入れば、少しして家令がやって来た。 「突然の訪問済まない。だが屋敷内を検めさせてもらえばすぐに去るつもりだ。あまり構えないでほしい」 「ルートヴィッヒ殿下。まずは旅のご無事をお喜びいたします。どうぞお検め下さい」 「経営代理人を呼んでもらえるか?帳簿を見せてもらおう」  彼が侯爵の執務室で帳簿を検め始めると、家令は代理人に目配せする。「出来るだけ家人については話題に触れるな」。これは上級使用人の間では当たりまえのことだった。  まさか王子が社交界に一度も出た事のない令嬢のことなど気に掛けるとは思えないが、万が一ということもある。  家令は一時的にでもレジーナを通常の部屋に移し、病床にいるように見せかけるか逡巡した。  だが結局急ごしらえのボロを出すよりはそのまま話題に出さないようにしようと思い、王子が早く帰ることを心の中で祈った。  とは言え、やはり尋ねなければ失礼であろう。  家令は食事については申し出ることにした。  すぐに去ると言っているのだ、わざわざ泊まれと言う必要はないだろう。 「殿下、お疲れ様でございます。是非当家にてささやかな晩餐を用意させていただけないでしょうか。精一杯のおもてなしをさせていただきますので」 「いやいい。その心遣いだけ受け取ろう」  ルートヴィッヒは出されたお茶を飲みつつそう答えた。  家令は内心ほっとする。 「さようでございますか。ではわたくしは控えておりますので、ご質問等ございましたらいつでもお声がけください」 「ああ」
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