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やはりあの家令、隠しているな。
ならば。
「隊長、俺も手合わせ願いたい」
王子が訓練に興味を持ち騎士がざわつかせた。そして彼は、うっかり訓練に夢中になると夜を迎えてしまった。
家令は心の中で舌打ちしつつ、結局この王子をもてなし、晩餐と部屋を用意した。
だが武芸にもめでたい彼は終始騎士の話をしていたので、「結局は興味のあることにのめり込む子供」と完全に油断した。
夜、用意された部屋でくつろいでいたルートヴィッヒは、使用人も休む時間になると自分の内に宿る守護精に語り掛けた。
「プロミネーア。昼間俺が見ていた3階の部屋の様子を見て来てくれないか」
すると王子の目の前の小型の翼竜が現れた。大きさはカラスくらいだろうか。
固い鱗は鮮やかなヴァーミリオン。瞳はルビーのような煌めき。
「中に令嬢が一人いるかもしれない。守護精はフレイムリザードと聞いた」
小型のドラゴンは窓から飛び立つと、5分とかからないで戻って来た。
「いたわよ。可愛い子を連れていたわ」
「もう寝ていたか?」
「いいえ、夜着ですらないわ。でも部屋の明かりは消していたわよ」
「寝たふりでもしているのか?気になるな。朝まで見張っててもらえるか?」
「いいわよ。ルトはちゃんと寝るのよ?広くてふかふかのベッドなんて久しぶりじゃない?」
「別に俺はお前の背中だって寝られるが」
「あら、頼もしくなったものね。最初に野営をした時のあなたに聞かせてあげたいわ。それじゃあおやすみ坊や」
そう言うと彼女はまた窓から飛び立った。「坊やはやめろ」という声はもう届かなかった。
プロミネーアに言われた通りベッドで休み、どれくらいたった頃だろうか。
彼女が戻った気がして目を覚ませば、案の定椅子の背もたれに降り立つ瞬間だった。
ベッドで横になったまま彼女に向き直ると、小声で「どうだった?」と聞いた。
「女の子が一人、外に出て行ったわ」
「出て行った?扉からか?」
「いいえ窓から」
「3階だぞ?」
「そうね。いくら守護精で強化していても、飛び降りるのはお勧めではないわね」
「飛び…ただの怪我じゃ済まないぞ!?」
「器用に植え込みに落ちていたわ。それでも痛いとは思うけど。でも大事なのはそこじゃない。あなた、馬を盗まれたわよ」
「は?」
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