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翌日、父さんは食堂の机の上で突っ伏してるところを、緑に叩き起こされてた。
昨夜は、やけ酒になっちゃったかな。せっかくのお祝いの日、美味しくないお酒にさせちゃって、ごめん。
私のせいで、二人に嫌な思いをさせてるかもしれないって、そう考えたらなんとなく家にも居づらくて、独りで出てきたのは村はずれにある池のほとり。
家自体も村の中心からは離れていて、そこから更に歩いた先にある池の周りには、人の気配なんてない。
ここなら、私のことを遠巻きにする人も、緑との関係を邪推する変な視線もない。
池の水面を覗き込めば、相変わらずの顔立ちをした私がこっちを見てる。
五年前と変わらない背格好。
子供にとっての五年間は、大人の五年と違って誤魔化しがきかない。老け顔とか、若作りとか、そういう問題じゃない。
だって、背が伸びやしない。
何度も、何分も見つめていたって変わらない自分の顔に、とことん嫌気がさしてきて、手元にあった小石をその顔に向かって投げつけた。
小石は水面の私の顔を見事に歪ませて、波紋を池全体に広げてくれる。
その水面を見ながら、すっきりしたのも束の間、またすぐに変わらない私の顔が浮かび上がる。
「そんな顔、見たくもないよ」
ため息混じりに呟いたその声は、誰かに届くはずもなく、空中に消える……はずだった。
「そうかい? 素敵な顔だと思うけど」
私の頭上、それもかなり上から突然降ってきた声。
誰もいない、人気のない池のほとりで、聞こえるはずもない声。
その声の主を探そうと、上空を見渡した。
「ここだよ。やっと見つけた。探したんだよ……姫」
上空の声の主は、肩の辺りで切り揃えられたサラサラのストレートヘアを優雅に揺らしながら、そう言って微笑んだ。
まるで童話に出てくる王子様。
って、貴方誰?
姫って、誰?!
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