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突然目の前に現れた男の人は、羽の生えた白馬に乗っていて、まさに白馬の王子様。
艶々の髪の毛と、金糸の刺繍が入った服。それに磨き上げられた靴。その全てが太陽に照らされてきらきら輝いていて、漫画だったら彼の周りにはそんな効果がつけられて描かれるだろう。
天然王子様だ。
さて、そんな彼に『姫』と呼ばれたお姫様は一体どこにいるの?
辺りを見渡しても、そんな素敵な女の人は見る影もない。
こんな村はずれに、いるわけもないか。
「あの……姫はいませんよ? 場所間違ってるみたいです」
「おや、そんなはずはない。彼の想い人は間違いなく貴女だから」
天然王子様が爽やかに微笑むと、私の側まで白馬が舞い降りてきた。
羽の生えた白馬って。
「ペガサス?」
「ペガ? これは天馬さ。あぁ、本当に彼の言った通りだ」
空から何かに乗って目の前に降り立つ。私はこの光景と同じ様なものを五年前に見たはずだ。
襲いくる既視感。
「そっか。これ、尚と一緒なんだ」
「その名前、覚えていてくれたんだね」
私の呟きに、すぐさま王子が反応を返す。
「尚のことですか? 忘れられるわけありませんよ。助けてもらってなんですが、あんなところに置き去りにされて、独りきりで」
「その後の貴女のことを見ていれば、さぞ彼は恨まれているだろうなぁと思ってはいたが、思った以上に大変そうだ」
「尚と、お知り合いですか?」
「んー。どうかな。僕は親友だと思っているが、彼は僕のことを邪魔に思っているだろうね」
尚とはまた違った意味で会話のしづらい相手だ。
さらさらと返ってくる言葉は、まるで劇の台本の様で、感情が行方不明になってるみたい。
「それで、何か御用ですか? そもそも私は姫ではありませんし、尚とは五年前に会ったっきりです」
「そうだったね。君たちの世界では、五年というのがそれなりに長い時間だというのを失念していたよ。もう少し早くに迎えに来るつもりだったのだけど」
君たちの世界?
こことは違うところから来たの?
そもそも何でこの人、飛べるの?
「ただ尚が貴女のことを気にしていたのは間違いないんだ。もし良ければ、尚の元に行ってみない?」
「えっ……」
「多分、貴女相手になら酷いことはしないはず。余計なお世話だって罵倒されてしまうかもしれないけど」
「そんなの……」
嫌だけど。
罵倒されに行くの?
わざわざ?
「あぁ。罵倒されるのは僕だけさ。貴女には、多分被害はないよ。きっと」
罵倒されるって言いながら、きらきらに拍車がかかってる気がするのは何で?
「い、嫌です」
そんな彼の態度を見たら、断るしか選択肢はないじゃない。
「嫌なの?! 何で?」
まさか断られるなんて思ってもみなかったと言わんばかりに、彼の顔に驚きが溢れかえる。
驚くところじゃないでしょ。
尚に会いたいとも思ってないし、この王子も怪しいし。
普通、罵倒されたくなんかないよ。
「別に、会いたくないからです」
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