十歳の男の子に拾われました

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「はるかー。もうすぐだけど、準備できてる?」  相変わらずのイケメン具合に、益々磨きがかかった(りょく)が、仕立てたばかりの民族服に袖を通して、私に呼びかけた。 「もちろん! 緑の成人の義、見逃すわけにいかないもん」 「僕のってわけじゃないよ。みんな一緒に聖廟に呼ばれるんだし」 「そんなことわかってるよ。でも、この日のためにたくさん準備したんだよ。緑のって勝手に思うぐらい良いでしょ」 「はるかは本当にたくさんやってくれたからなぁ。それこそ寝る間も惜しんで。緑、感謝しろよ」  拗ねたように唇を尖らせた私の頭を、ぽんぽんと軽く叩きながら、誠弦(せいげん)父さんが後ろから口を挟む。  これが五年前から続く私の日常。  五年前のあの日、多分飛行機事故に遭った私は、そのまま別の世界に転移してきちゃったんだと思う。  そして、その時に何かの原因で体が小さくなった。  この五年間、緑と父さんと一緒に暮らしながら、なんとなく腑に落ちた予想。  元の世界に戻る方法なんてわかんないし、そもそも事故で死んじゃってる可能性のが高いし、何で体が小さくなったのかもわかんない。  理解できないことばっかりが積み上がったこの世界で、何とか一日一日を暮らしてきた。  もしかしたら、なんて疑ってた二人は、驚くぐらいの良い人で、そのうち悪人に騙されちゃうんじゃないかって心配になる。  正体不明の私のこと、五年も面倒みてくれるなんて、絶対普通じゃない。  おかげでこの世界の常識とか、言葉とか、そういうものは頭に入ったけど。  別の心配が付き纏ってる。 「そうだね。僕がこんなに素敵な衣装を着られるのは、はるかのおかげだ」 「本来ならきちんと仕立てるべきなのになぁ。結局はるかに全部縫ってもらって……」 「昔はみんな家で縫ってたって、村のばばさまも言ってたよ。だから、それを真似しただけ」 「だけど、まだこんなに小さい体で、緑の衣装を縫うなんてなぁ」  感慨深げに呟きながら、父さんが私のことを抱き上げた。  五年前よりもずっと遠くなった緑の顔の前を通り過ぎ、父さんの目線と同じところから緑を見る。  父さんの目線からじゃあ、まだまだ緑のつむじが見えそうで、首が痛くなるぐらいに見上げなきゃいけなくなった緑の身長も、父さんに比べれば半人前だ。  背を測るためにつけてた柱の、緑の傷はどんどん上になっていったのに、父さんに追いつくにはまだかかりそう。  私なんか、後何十年かかっても無理。  だって、私の傷は五年間ほぼ同じ位置につけられてる。  五年間で、成長したのは緑だけ。  同じように時を刻んでいるはずなのに、その時間が成長に繋がってるのは、緑だけなんだ。 「こんなに小さいって言っても、はるかももう十歳になるんだろ? 何でも一人前にできるようになっていくよな」  今度は緑が私の頭を撫でながら、笑顔を見せる。  相変わらずの破壊力だ。
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