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「そうだよ! 次はもっと立派なの作るからね」
この家に来て、五歳ぐらいの体つきだった私ができたのは、わずかな家事。
畑を耕したり、狩りに行ったり、そんな生活の手段には何の役にも立たなくて、見捨てられないようにって、男二人で不便を感じてた家のことに率先して手を出した。
それでも二人はありがたがってくれて、何とか今日まで捨てられずにいられてる。
「次は、はるかの成人の儀だもんね」
「女の子だし、どこの家も何年も前から華やかな衣装を用意するんだろうなぁ」
父さんが顔をしかめながら、ぼそっともらした。
女の子達の衣装は、どれも男の子のものよりも華麗で煌びやかで。
お金も時間もかかってるのが一目瞭然。
正直、この家にそれを用意する余裕がないことぐらい私にだってわかる。
緑の衣装すら、生地を用意するのに精一杯で、仕立てに出せなかった。
私のなんか、到底無理だ。
それでも、父さんが毎月わずかな生活費の中から、一生懸命貯めてるのを知ってる。
それが、草原で拾った、どこの誰かもわかんない私のためだってことも。
毎日の食事をギリギリに切り詰めて、休みなく働いて。
本当は、そんなこと止めてって叫び出したい。家の隅に置かれた壺の中に貯まったお金で、美味しいもの食べればいいよって、そう言いたい。
それでも、貯まっていくお金を見ながら、嬉しそうにする父さんを見ると、そう言い出すこともできない。
私にできることは、この体でできるだけの家事をするだけ。
たった、それだけなんだ。
「私のも、また私が縫うよ。あと五年もすれば、もっと腕も上がるし」
何も知らないフリ、何も気付いてないフリをして、腕に力こぶを作ってみせた。
痩せた腕のどこにも、盛り上がる部分はできなかったけど、私の様子を見ながら二人が笑ってくれる。
これがこの世界で見つけた私の幸せ。
ほんの小さな幸せで、吹き消したらすぐにでも消えてしまいそうだけど、それでも、かけがえのない日常。
壊さない様に、壊されない様に、脆いガラス細工の様な暮らしを守ってきた。
これからもずっと、守っていく。
私の人生が、もう一度終わるまで。
もし飛行機事故に遭ったんだとしたら、私の人生はそこで終わってた。
あの草原で緑達に見つけてもらえなかったら、やっぱり終わってただろう。
この世界に来た理由も、何をすれば良いかもわかんない。
小説に出てくる様な神様だって出てこない。
だったら、次の終わりが来るまで、この二人のために過ごしてみよう。
私の思うままに、過ごしていよう。
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