十歳の男の子に拾われました

6/6
前へ
/108ページ
次へ
「そうだよ! 次はもっと立派なの作るからね」  この家に来て、五歳ぐらいの体つきだった私ができたのは、わずかな家事。  畑を耕したり、狩りに行ったり、そんな生活の手段には何の役にも立たなくて、見捨てられないようにって、男二人で不便を感じてた家のことに率先して手を出した。  それでも二人はありがたがってくれて、何とか今日まで捨てられずにいられてる。 「次は、はるかの成人の儀だもんね」 「女の子だし、どこの家も何年も前から華やかな衣装を用意するんだろうなぁ」  父さんが顔をしかめながら、ぼそっともらした。  女の子達の衣装は、どれも男の子のものよりも華麗で煌びやかで。  お金も時間もかかってるのが一目瞭然。  正直、この家にそれを用意する余裕がないことぐらい私にだってわかる。  緑の衣装すら、生地を用意するのに精一杯で、仕立てに出せなかった。  私のなんか、到底無理だ。  それでも、父さんが毎月わずかな生活費の中から、一生懸命貯めてるのを知ってる。  それが、草原で拾った、どこの誰かもわかんない私のためだってことも。  毎日の食事をギリギリに切り詰めて、休みなく働いて。  本当は、そんなこと止めてって叫び出したい。家の隅に置かれた壺の中に貯まったお金で、美味しいもの食べればいいよって、そう言いたい。  それでも、貯まっていくお金を見ながら、嬉しそうにする父さんを見ると、そう言い出すこともできない。  私にできることは、この体でできるだけの家事をするだけ。  たった、それだけなんだ。 「私のも、また私が縫うよ。あと五年もすれば、もっと腕も上がるし」  何も知らないフリ、何も気付いてないフリをして、腕に力こぶを作ってみせた。  痩せた腕のどこにも、盛り上がる部分はできなかったけど、私の様子を見ながら二人が笑ってくれる。  これがこの世界で見つけた私の幸せ。  ほんの小さな幸せで、吹き消したらすぐにでも消えてしまいそうだけど、それでも、かけがえのない日常。  壊さない様に、壊されない様に、脆いガラス細工の様な暮らしを守ってきた。  これからもずっと、守っていく。  私の人生が、もう一度終わるまで。  もし飛行機事故に遭ったんだとしたら、私の人生はそこで終わってた。  あの草原で緑達に見つけてもらえなかったら、やっぱり終わってただろう。  この世界に来た理由も、何をすれば良いかもわかんない。  小説に出てくる様な神様だって出てこない。  だったら、次の終わりが来るまで、この二人のために過ごしてみよう。  私の思うままに、過ごしていよう。
/108ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加