episode3

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episode3

父を亡くした。 僕は父を殺した。 面倒見のよい父。 家事が上手な父。 よく遊んでくれる父。 社交的な父。 歌が上手な父。 亡き人を大切にする父。 他人想いな父。 父としても、人としても、多才で、非の打ちどころのない完璧な人間だった。 僕はそんな父が大好きだった。 でも、父は死んだ。 僕は何もかもを失った。 人生のすべてを父に背負わせていた。 そんな僕には、父が死んだあと、何も残らなかった。 家には相変わらず誰もいない。 家事が下手くそな僕しか住んでいないから、 家がゴミ屋敷になるのに、時間はかからなかった。 親戚からの振込があるから、僕は割と不自由なく生活できているのだが、 名前のない、満たされない感覚に 一人、埋め尽くされそうになる。 今日はすることもない。 久しぶりに掃除でもしようか。 ポケットにしまっていたスマートフォンを取り出し、時刻を確認する。 18時30分。 夕飯は、カップ麺でも食べればいいだろう。 さぁ、掃除をするとしても、どこからすれば良いのだろうか。 かろうじて足の踏み場があるこの部屋以外は、ゴミ以外に何もない。 まずはゴミの処理からだ。 かといって、ゴミ袋がない。買いに行かなければ…… 面倒だな、もういいや、また明日やろう。 相変わらず、面倒臭がりだな、僕は。 父がいる時は、後回しなんて絶対にしなかったのに。 ある意味完璧主義の僕は、 一度途絶えるともうできなくなる。 カップ麺をどこに置いたかすらも分からない。 まぁ、いいや。冷蔵庫に確か昨日の惣菜の残りがあるはず。 それを食べよう。
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