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幼稚園に入ってから、絵を描く機会が増えた。色がわからないことを知られたくなかった私は、どれがどの色なのかを覚えるのに必死だった。でも、この世の中にはものがありすぎて、友達から不思議な目で見られることが多くなり、色がわからないことはあっという間に知られてしまった。
「かすみ、これ何色かわかる?」
これはりんごだ。前に教えてもらったことがあるから、今回は間違えないだろう。
「赤でしょ」
「ブッブー。緑でしたー」
みんなに君の悪い声で笑われた。
「りんごって、赤じゃないの?」
「りんごは赤だけじゃないし、色なんて見ればわかるだろ。あ、色わからないんだっけ」
またみんなに笑われた。涙が湧いてきて、喉が焼けていくような感じがして、トイレに向かって走った。色がわからないだけでこんなにいじられるなんて、なんで神様は私の世界に色を与えなかったのだろう。トイレのドアを閉めた瞬間、溜めていた涙がぽろぽろと溢れ出した。声を出してわんわん泣きたかったが、他の子が聞いているかもしれないと思って静かに泣いた。
その後もいじられる日が続いて、幼稚園を卒園した。小学校に入ってからもこれが続くのかと思うとゾッとした。
お母さんに話して、幼稚園が一緒だった子と小学校が離れるように、家から少し遠い学校へ進学することになった。
「2って、青のイメージなんだよね」
「俺は黄色のイメージ」
「えっ?赤じゃないの?」
その会話をふと耳にしたとき、少し安心した。色のイメージが違うものもあるのだと、みんなと同じ気持ちになれた気がした。
そんなことを思ったのも束の間。色がわからないことが広まると幼稚園と同じようないじりが続いた。特に、図工の時間は地獄だった。絵の具や色鉛筆を使わない授業がほとんど無かったため、その時間は散々馬鹿にされた。でも、ある図工の時間のときに一人だけ私を庇ってくれた子がいた。
「なんだこの絵。めちゃめちゃじゃん」
「見てるだけでチカチカする」
周りの子から蔑んだ目で見られ、先生も見て見ぬふりをした。
「ちょっと、香澄ちゃんは私たちと違って色がわからないのよ!これ以上馬鹿にしないで」
沢野未奈ちゃん。クラスのリーダー的存在で友達も多かったことから、これ以上いじられることはなかった。でも、私にとって「友達」と呼べる人は未奈ちゃんだけだったと思う。あの日、図工室から教室までの道のりを一緒に歩いてくれて、休み時間も共に過ごした。帰り道も途中まで一緒に帰ってくれた。
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