騙し騙され、恋してる。

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「さ、飲んで飲んで」  酒を二、三本頼んで差しつ差されつやっていると、大山田は勿論、章子もすっかりいい気分になってきたよう。頬を桜色に染め、机に頬杖を突いて、とろん、とした目で大山田を見詰めてきた。 「なあ、さぶちゃん」  その目と同じ蕩けた声で呼ばれれば、化け狐と分かっていながらも大山田の鼓動は大きく鳴る。 「何でお……私やと分かったん?」 「え? やって……」  どう言い繕おうかと、狐の章子を上から下まで見る。咄嗟に昔遊んでた女の子の名前出したけど、こうして見ると似てるような……  陽を受けると高級栗みたいに輝く髪に、紅花で染めたかのように赤く美しい唇……それは章子ちゃんの特徴でもあった。まさか。いや、でも……。  指を伸ばし、恐る恐る髪に触れてみる。絹のようなそれは、さら、と大山田の指を擽ってきた。どくり、心臓が蠢く。  章子の琥珀色の瞳が、じっ、と大山田の目を捉えて離さない。その正体は化け狐だと分かっていながらも、彼の喉は、ごくり、と大きく上下した。  指を、髪から頬へと移動させる。すると、懐いた猫のように頬を摺り寄せてくる章子。震え始めた指に大山田が戸惑っていると、章子は顔を動かし自らの口元に大山田の指を持ってき、はむ、と食んだ。  湿って生温かい感触に、大山田の理性は、くらり、とよろめく。一瞬にして体に熱が宿り、そうして気付けば章子のしなやかな体を組み敷いていた。  着物の合わせから覗く美しい鎖骨に、裾を割って伸びる白い脚。狐といえども今は立派な美少女、大山田の中の理性が弾けた。  浮き出た鎖骨に口付けつつ、右手は太股へ。上と下からの愛撫に、「ん」と淳子が身を捩る。着物の前が大きく肌蹴、白い胸元が露わになり…… 「ん?」  それと同時、大山田の手は淳子の股の間へと辿り着く。 「あ、れ?」  戸板の如く真っ平らな胸元を見ながら、手は僅かに芯を持った棒のようなものに触れていた。 「ん、ぁ」  肌を震わせる章子。対して大山田の目は大きく見開かれる。よく見れば、喉仏もあるような…… 「おと、こ?」 「さぶ、ちゃん」  欲情に潤んだ瞳が見上げてくる。大山田は弾かれたように後方へと飛び退いた。 「え? おと、おと、こ?」  頭が混乱する。今の目の前にいるのは昔一緒に遊んだ章子ちゃんで狐で、男ぉ~~~~!? 「だ、騙したなーーーーっ!?」  声を掛けたのは自分からなのに、大山田はそう声高に叫ぶと襖を音高く開け放ち、一目散に外へと駆けて行った。 「あっ、ちょおさぶちゃんっ」  がばり、上体を起こし手を伸ばす章子だが、大山田は戻ってくる事は無く、代わりに何事かと女中たちがやって来た。しかし、その女中たちは章子を見るなり足を止める。わなわなと唇を震わせ女中が指差す先は章子の頭。 「え?」  ぺた、と頭に手をやれば、そこには隠したはずの狐耳。やばいと思うも時すでに遅く、「ぎゃーっ!!」という大地を揺るがすが如き悲鳴に、章子は尻尾までも生やしつつもなんとか逃げ出した。
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