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タヌキ仲良し三匹組
・
・【タヌキ】
・
「今日は抜き打ちで変化の術のテストをする!」
先生がそう高らかに宣言した。
これには正直、僕は頭を抱えてしまった。
何故なら変化の術はとても苦手だからだ。
小学三年生から始まった、変化の術の授業は三年経ってもなかなか上手くならないのだ。
本当は上手いタヌから教えてもらいたいんだけども、上手いタヌって天狗になっているから、あんまり教えてくれるとかしないんだよなぁ。
何であんな天狗に変化しちゃうんだろうか、鼻が高く、赤くなっていない状態でも立派な天狗だよ、もう。
先生は席順に指名していく。
「タヌ太! 人間! そう良い! 無機物! そうそう! 小動物! よしっ! 良いだろう!」
「タヌ美! 人間! まあ良いだろう! 無機物! まあギリギリだけどな! 小動物! それはすごく良い! 次!」
どんどん僕に近付いてくる。
う~ん、どうすればいいんだ、ちゃんとできるかなぁ、そもそも一発勝負なんて先生に有利なルール過ぎるんだよぉ。
「次! タヌ彦!」
呼ばれた僕は「はい!」と返事してその場に立ち上がった。
「まずは人間!」
僕は身長の高い男性に変化してみた。
すると、
「めちゃくちゃ良い! タヌ彦はいつも人間が上手い! 服もそれっぽく見える! 良いボディペイント! ここから! 無機物!」
ここは一番簡単な石に変化してみるか。
いやいや、石でダメならもう目も当てられない。
ここはあえてちょっと難しい、元気な松にチャレンジしてみよう。
「おい! それ何だ! 縦細長チョコか! 次! 小動物!」
うわぁ、全然松に見えなかったみたいだー!
えっと、次は、なんだろう、ネズミになってみるかっ。
「それフサフサ! フサフサ茶色まりも! 全然ダメ! タヌ彦は人間以外ダメ!」
クラスメイトからクスクス笑われてしまった。
何でこうも上手くいかないんだろうか。
そもそも先生が教えるの下手だからダメなんだよ。先生が悪い。これは絶対先生が悪い。
そんな先生はどんどん指名していく。
「タヌ吉! 人間! めちゃくちゃ良い! 無機物! 結構良い! 小動物! 最高!」
うちの番長的存在、タヌ吉はやっぱり一番成績が良いみたいだ。
タヌ吉から変化の術を教えてもらいたいんだけどなぁ。
その後も抜き打ちテストはどんどん行なわれていった。
その結果が、
「タヌ彦! タヌ丸! タヌ夫! オマエらはいっつも一芸! 今日の昼休みはそれぞれ教え合いしろ!」
僕とタヌ丸とタヌ夫は顔をそれぞれ見合わせて、照れ笑いをした。
やっぱりというかなんというか、いつでも僕らは一緒だなぁ。
昼休みになり、三匹でご飯を食べている。
僕たちはそもそも仲良し三匹組なのだ。
僕は人間が、タヌ丸は無機物が、タヌ夫は小動物が得意なんだけども、それぞれ教え合うことは上手くできない。
何故なら感覚だけでやっていて、言語化がいまいちできないからだ。
前に番長のタヌ吉がこういう感覚で、って自慢げに話し始めたことがあったけども、すぐに周りの友達からドッヂボールに誘われて、そっちへ行ってしまったことがあった。
あの時、あの語りを、自慢げで嫌な喋り方だったけども、それをずっと聞けていたら、と思っていると、後ろから急に先生の声がした。
「コラー! ちゃんと教え合いをしていないじゃないか!」
僕たちはすぐに立ち上がってから先生のほうを振り返ると、先生はゲンコツを作って、
「これからオマエたちにゲンコツを喰らわす!」
と言ってきたので、そんなぁ! と思っていると、急に先生は白い煙に包まれて、なんと、番長のタヌ吉になったのだ!
番長のタヌ吉はニヒヒと笑いながら、
「冗談、冗談。オマエたち暇だろ? 今からタヌメロンを取りに行かないか?」
僕は目を丸くしながら、
「タヌメロンがこの辺りにあるのっ?」
と言うと、番長のタヌ吉が頷いてから、
「噂によると、この小学校の学区外にあるらしい」
するとすぐさまタヌ丸が、
「そんなのダメであります! 学区外には出てはいけないことになってます!」
と挙手しながら声を荒らげたんだけども、番長のタヌ吉が、
「いいじゃんいいじゃん、俺のお供をやれよ」
タヌ夫は俯きがちに、
「お供なんて……そんな格下みたいな……」
とポツリと喋ると、番長のタヌ吉は自信満々に、
「だって格下じゃん」
と言い切って、タヌ丸は溜息をついてから、こう言った。
「日本語の勉強や他の座学は私のほうが上であります!」
「タヌキの本分は変化の術だろ! そう校長先生も言ってるぜ!」
「そうでありますがっ」
と少し語気が弱まってしまったタヌ丸。
番長のタヌ吉は僕と肩を組んできて、
「じゃあこうしよう、俺にお供したら変化の術を教えてやる。つきっきりで二時間だ」
二時間が長いのか短いのか分からないけども、番長のタヌ吉くんから教えてもらえるのは本当に有難い。
それなら、でも、と思っていると、タヌ夫が深呼吸してからこう言った。
「それ……本当だな……じゃあ行ってもいいぞ……」
タヌ夫もそう思っているなら、と僕も挙手しながら、
「僕も! 行くよ!」
と言うと、頭を抱えたタヌ丸。
でも僕とタヌ夫の眼差しに、
「分かったであります。私も行くであります」
と答えて、僕たちは学校を飛び出して、タヌメロンを取りに行った。
・
・【タヌメロン】
・
タヌメロン。
それは一見普通のメロンに見えるが、タヌキが食べると、とても美味しく感じるメロンのこと。
さらには身体能力も飛躍的に伸びる、と言われているが、実際のところは分からない。
何故なら一般的な家庭のタヌキは食べる機会が無いからだ。
だから幻の果実と呼ばれている。
「こっちこっち! こっちのほうって話だ!」
番長のタヌ吉はどんどん進んでいくんだけども、確かそっちは、と思ったところでタヌ丸がこう言った。
「タヌ吉、そっちは危険地帯であります。野蛮な人間が居るという噂であります」
「大丈夫だって、人間なんて化かして一発だぜ!」
と番長のタヌ吉が言ったその時だった。
どこからともなく、人間の手が伸びてきて、番長のタヌ吉を捕まえようとしたのだ!
僕はとっさに走り込んで、タヌ吉をドンと押し出すと、代わりに僕が捕まってしまった!
僕は人間の手の中でバタバタしたんだけども、薬品クサイ香りがする布を嗅がされたら、何だか力が入らなくなってきて……意識が遠ざかる瞬間、タヌ丸とタヌ夫が僕を助け出そうと、人間に噛みついていったけども、そんなことよりも逃げてほしくて……。
気が付いたら、僕とタヌ丸とタヌ夫は、乳牛くらいの動物が入るサイズの檻の中にいた。
番長のタヌ吉はいない。どうやらあのまま逃げることができたのかもしれない。それなら良いんだけども。
僕は寝ている様子のタヌ丸とタヌ夫を起こした。
キョロキョロ見回して、すぐに状況を把握したタヌ丸が、
「檻から出て逃げるであります」
と小声で言った。
そう、小声。
今、檻の門番をしている人間は仰向けになって寝ているようだった。
この檻がある場所は塀に囲まれているものの野外で、この塀を飛び越えれば逃げ出せる感じがする。
塀も実際そんなに高くなく、この檻に依存しているって感じだ。
これなら僕たちは飛び越えられる、そう確信し、僕はタヌ丸とタヌ夫にこう言った。
「まずタヌ夫は小鳥になって檻の隙間から出て、周りの様子を確認してほしい。僕は怪力の人間になるからそれで檻を静かに曲げて外に出る。タヌ丸はとりあえず石になってタヌ夫の武器としてタヌ夫に掴まれていてほしい」
タヌ丸は、
「それでいくであります」
と言って底が尖った石になり、
タヌ夫は、
「良い作戦だ……」
と頷いてから小鳥になって、尖った石になったタヌ丸を掴んで、檻の隙間から外に出て、外の様子を確認し始めた。
僕は怪力の人間になって、檻をゆっくり静かに曲げ始めた。
徐々に曲がっていく檻。
あともう少し隙間が大きくなったら、タヌキの状態になって逃げられると思ったその時だった。
”バツン!”
檻の上部から轟音が鳴った。
上を見ると、なんと檻の棒が僕のあまりの怪力で外れてしまい、音が出てしまったみたいだ。
仰向けになって寝ていた門番が何だか起きそうになったところで、小鳥になったタヌ夫が戻って来て、門番の鼻に尖った石になっているタヌ丸を落とした。
「イテェ! 何だ何だぁ!」
パニックになっている門番を横目に僕はタヌキに戻って、小鳥のタヌ夫はそのまま小鳥のまま、尖った石のタヌ丸もタヌキに戻って塀を飛び越えた。
小鳥からタヌキに戻ったタヌ夫が走りながら言う。
「こっちのほうだ……おれはここまで飛んできたことがあるから方角は分かる……決してタヌ学園は遠くないはず……」
森の中を一生懸命走る僕たち。
でも後方からは人間の「逃げ出したぞ!」という声が聞こえる。
タヌ夫が続ける。
「どうやらタヌメロンこそ罠だったらしい……人間は日本語を喋るタヌキを捕まえて売ろうとしていたらしい……」
そんな! 売り飛ばされたら、ここから離れることになる!
僕たちは必死でタヌ学園を目指した。
学区内に入れば、タヌ結界があって、人間が入って来れないから。
・
・【道中】
・
森の中を疾走していた僕たちを阻む存在が現れた。
流れが速くて、幅の広い川だ。
愕然とした。
さすがに飛び越えられそうにないから。
でも、この方法なら、いける。
だから伝えるしかない。
「さっきと同じようにタヌ丸が小石、タヌ夫が小鳥になってほしい」
タヌ丸が嬉しそうな顔で、
「さすがタヌ彦であります! 良い作戦が思いついたでありますね!」
でも僕は、神妙な面持ちでこう言った。
「タヌ夫がタヌ丸を掴んで、そのまま逃げてほしい。僕はもうここまでだよ」
タヌ夫が目を見開きながら、
「そんなことできるはずないだろ……!」
タヌ丸はおろおろしながら、
「そんな! タヌ彦を置いてくことはできないであります!」
でも、
「全滅よりはこうするしかないよ。僕は小鳥に変化することが無理なことは勿論、小石になろうとしても重量を軽くすることができなくて」
するとタヌ夫がこう言った。
「じゃあタヌ丸が長い丸太になって……それを怪力の人間で橋のように向こう岸に掛けて……タヌキに戻って渡ればいいんじゃないか……?」
「それであります!」
タヌ丸は即座に長い丸太に変化した。
僕は瞳を潤ませ、
「ありがとう」
と言いながらまた怪力の人間になって、橋を架けた。
タヌ夫は小鳥の状態で渡り、僕はそのタヌ丸の丸太の上をタヌキで渡った。
僕は渡り切り、タヌ丸の丸太をこっちの陸へ完全に引っ張って、タヌ丸も丸太状態を解除した。
またタヌキに戻って三匹で走り出した。
さすがに追いかけてくる人間も川を渡ることはできないだろう。
森の木々は徐々に少なくなっていき、平原のような場所が見えてきた。
これで安全圏に来たと思ったその時だった。
大きな影に覆われた僕たち。
一体何だ、と思っていると、タヌ丸が叫んだ。
「タヌ彦! 上であります! 木の下に戻るであります!」
僕は言われるがまま戻ると、なんと間一髪。
僕へ向かって、鷹が飛んできていたのだ。
木の下に戻って、上空を確認すると、鷹が何羽も飛んでいたので、僕はすぐさま人間の姿になった。
人間になれば鷹は襲ってこないだろう、と思っていると、タヌ夫が震えだした。
「ダメだ……おれは小動物にしか……なれない……何になっても……鷹の餌だ……」
するとタヌ丸がこう言った。
「じゃあ私が鳥かごになるであります! さっき檻を見た直後でありますし、精度の高い鳥かごができるはずであります!」
そう言うと、タヌ丸は鳥かごになり、その中に小鳥になったタヌ夫が入った。
それを持って僕は走って、鷹がいる平原を突破した。
そして僕たちは無事、タヌ学園に戻った。
・
・【エピローグ】
・
タヌ学園に戻ると、番長のタヌ吉は無事だったみたいで、既にいて、泣きながら僕たちの帰りを喜んでくれた。
どうやら番長のタヌ吉は「全部自分が悪い」と先生にも言っていたみたいで、僕たちはお咎めなしになった。
ただ脱走した話は詳しく聞かれて、先生はそれを文字に起こして『タヌキ三匹の脱走劇』という本の形にした。
その後、僕たちは番長のタヌ吉から付きっきりで変化の術を教わった。
教え方もとても優しくて、結局一ヶ月分の昼休みと放課後、ずっと教えてくれた。
その結果、僕たちは変化の術が番長のタヌ吉よりも上手くなって、番長のタヌ吉からこう言われた。
「もう俺は番長じゃない。というかあの時、タヌ彦に助けられて何が番長だ。新しい番長はオマエだ! タヌ彦!」
正直番長という称号は全然いらないけども、番長のタヌ吉と仲良くなれて、僕はすごく心が躍る。
これからも僕はタヌ丸とタヌ夫と切磋琢磨していきたいと思っている。
(了)
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