あの子がマスクを外したら

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* * *  翌日の朝、学校に着くなり陽菜(ひな)が話しかけてきた。 「ねえ、今日もカフェ寄って行こうよ、カフェ。放課後、校門前で待ち合わせ。他の子には声かけてあるからさ!」 「私、そろそろ金欠で……」 「相談があるの。私、おごっちゃうから。お願い!」  両手を合わせる陽菜(ひな)の誘いを、断ることができなかった。  放課後、実憂(みゆ)は日直の仕事があったので、待ち合せに遅れてしまった。  待たせるのは申し訳ないと思い、校門まで走った。 「先に三人……あれ、四人いる?」  校門近くで楽しそうに話している、四人の女子。  ――やっぱり一人多い。  昨日のことを思い出し、実憂(みゆ)は鳥肌が立った。  マスクをしている三人のうちの一人。  随分と自然に溶け込んでいた。  実憂(みゆ)が合流するなり、急に口を閉じてしまった。  友梨奈(ゆりな)でもない、陽菜(ひな)でもない誰か。 「あの、ごめんだけど」  実憂(みゆ)は、我慢しきれずに唐突に切り出した。 「この子、誰?」  人を指さすのは相手に失礼だと、親に教わった。  しかし、この時は、ためらわずに真っすぐに指さした。 「何言ってるの、実憂(みゆ)? その言葉、失礼だよ」  陽菜(ひな)が、怪訝(けげん)な声で言った。 「何でよ! 私たちっていつも四人組じゃん。五人いるっておかしいよ!」 「本当に怒るよ、実憂(みゆ)!!」  次は冬美が眉を吊り上げて声を荒げた。 「私、この子のこと知らないんだけど。こんなの、おかしいよ!」  納得できない実憂(みゆ)は、語気を強めた。  その後、沈黙が流れる。 「実憂(みゆ)、一緒に行きたくないの? だったら、そう言ってよ」  冬美は、冷たい視線を実憂(みゆ)に向けた。  見たことのない冬美の態度。 「私、今日は行かない」 「じゃ、四人で行こっ。じゃあね」  冬美は、振り返ることなくスタスタと歩き始めた。  他の三人も、その後に続いた。  実憂(みゆ)だけが、その場に取り残される。 「気味、悪い」  そう思った実憂(みゆ)だが、気になって仕方がなかった。  帰宅する気が起きない実憂(みゆ)は、三人のあとをつけることにした。  まだ明るい時間なので怖くはない。  気が付かれないように距離を取って、尾行を開始した。  目的地は分かっている。  カフェに入っていく四人が見えた。  実憂(みゆ)は外で張り込むことにした。  一時間ほど経ったころ、四人がカフェから出てきた。 「じゃあ、またねー」  手を振り合って別れる四人。そのうち三人は、駅の方へ向かった。  そして、一人の女子生徒だけが逆方向へ歩きだした。 「あの子だ!」  実憂(みゆ)は距離を取ったまま尾行することにした。  女子生徒は、細道を抜けて川沿いへ向かった。  時刻は午後六時。  まだ明るいが、しばらくすると暗くなる。  家だけでも突き止めたいと思った。 「こっちに民家なんてあったっけ?」  実憂(みゆ)は不信に思いつつ、女子生徒を見失わない程度の距離を取った。  川沿いの土手を進む。  散歩やジョギングをする人とすれ違った。 「あれ?」  数十メートル先を歩いていたはずの彼女を、突然、見失う。  実憂(みゆ)は焦った。  しかし、冷静に観察すると、彼女は土手から林に抜ける階段を降りていた。  遅れて実憂(みゆ)も階段を降りる。  人通りのない雑木林の小道を歩く。  周囲がだんだん暗くなってきた。  数分歩くと、小さな公園に到着した。  真ん中には、ポツンと赤い滑り台。  塗装が()げていて、鉄製の足場は今にも崩れそうだ。  そこは、初めて来る場所だった。 「あれ、誰もいない」  一本道で誰ともすれ違っていない。見失うはずがない。 「私に何かご用かしら?」  背後から、唐突に声がした。  振り返ると、マスク姿の女子生徒が目の前に立っていた。 「キャッ」  悲鳴を上げた実憂(みゆ)は、驚きのあまりその場に尻もちをついた。  勢いで投げ出された鞄の外ポケットから、スマートフォンが地面に落ちた。 「カフェの前からずっと跡つけてたでしょ。気が付かないとでも思った?」  声に聞き覚えがある。でも、誰だか思い出せない。  彼女は、地面から実憂(みゆ)のスマートフォンをひろい上げた。 「触らないで!」  勢いよく立ち上がり、彼女の手からスマートフォンを奪い返そうとする。  しかし、女子生徒は体を返して、軽々と回避した。 「このスマホ、頂いておくわね」 「それを奪っても、顔認証かけてあるから、使えないわよ!」  実憂(みゆ)は、精一杯の声で対抗した。しかし、その声は震えていた。 「いいこと、教えてあげる。冬美さん、あのこと知ってるわよ」 「あのこと!?」  ――何を言っているの? まさか……あのことって 「あなたの、か・れ・し」
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