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「塔ッ!」
寸断されるコースター。
「あらヨット」
へし折れるウォータースライダー。
観覧車のゴンドラごと爆散したかと思いきや、コーヒーカップから顔を出す。
「どうしたどうした? ワット数が衰えてるぞ。歳か?」
カメムシライダーはグリーンビームを微妙な距離で回避し俺をイラつかせる。
「準備体操は終わりだ。長年のよしみで命だけは助けてやろうと思ったが」
呼吸を整えながら俺は進化形態を準備した。
「肩で息をしてるじゃないか? そろそろ虫の域か?」
やかましいわ。いま【蔦フォーム】を準備している。この形態は蔦のような腕を持ち、敵を捕らえたり、障害物を乗り越えたりすることができる。蔦は柔軟性と強靭さを兼ね備え、自然界のしなやかさを象徴している。
そして必殺技は【大手危ホールド】だ。2兆ダインの力で締め付け2兆電子ボルトで焼き尽くす。
「躍進ッ!」
俺は敵愾心を込めて大地を蹴りお天道様に身を躍らせた。命の燦然と父なる威光を受けて俺の腕が地の果てまで繰り出される。
「応! いい顔してるじゃないか?」
カメムシライダーが指を鳴らすと一輪車が畑に突き刺さった。
「出ました! ナルシストロン丸」
俺は思わずエールを送った。こいつは「ちびっ子ビックリ。きょうふの夏休み。鳴門の流しうどん大決戦」が初出で俺の三半規管を散々まどわせた。
敗北を喫し俺は波の巻くプールで特訓を重ねた。リベンジは引き分けに終わったがそれから奇妙な絆が出来た。
「浸ってる暇はないぞ。いい加減こいつを壊してくれ。次の車検が迫ってる」
言うねえ。つか、律義に法令を守ってるのかよ。
「よし! まとめて葬ってやる」
そして、戦いが始まる。カメムシライダーは彼の機械の獣に乗り、金属と欲望の塔のような怪物を引き連れて向かってくる。
一輪車は一斉に牙を剥いた。ピザカッターのように俺の捕縛を乗り越える。
チクショウ。蔦フォームが効かない。
「群れるなんて卑怯だぞ!」
俺は畑を全力で守るため、大地に根を生やし、地に足を固めて立ち向かう。
「ど根青ぉぉぉ!」
吠えた。そして次から次へと触手を生い茂らせ物量で攻めた。
するとナルシストロンが集合した。ピカッとシルエットが輝いたかと思うと直径30メートルほどの鋸が転がり始めた。
「フゥーハハハ! 精神論の時代は終わったんだよ」
カメムシライダーがフリーフォールの頂上で胸を張る。
「何だとう? 戦いは体力勝負だ」
俺は睨み返す。だか彼は俺の言葉をやんわり受け止めた。
「ゴリ押しはパワハラを生むんだよ。今は協調の時代だ」
ナルシストロンがミニサイズに分離した。コーヒー皿のように回っている。
「どっ、ドローンだと?」
「そうだよ。グリーンビーン。いい加減アップデートしろ」
その一言が俺を滾らせた。
要するに他力本願じゃないか。今どきはすぐ休め、逃げろ、自分大事という。
「都合のいい時だけ数の暴力に頼るな」
俺は奴の卑怯を論った。何が協調だ、最新だ。ただの暴走族じゃなねぇか。
「お前の正義は賞味期限切れなんだよ。いい加減に引退しろ」
「うるさい」
俺は渾身のグリーンビームを放った。
ナルシストロンが爆散する。
「やったか?! まさか…な」
もうもうと立ち込める。
「―?!」
白煙が晴れると一輪車に跨った後ろ姿が遠ざかっていく。
しまった。そっちの方向には「ど根青ファーム」がある。ちびっこ農園だった場所だ。
やらせはしない。【根フォーム!】
このフォームでは強力な根を地面から伸ばし、地面を掴んだり、敵を地に繋ぎ止めたりすることができる。 また、地面からの養分を吸収して自己修復する能力も持つ。無数の芋が行く手に転がった。
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