グリーンビーンの野望

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温室は燃えていた。熱風にど根青の葉がそよぎ掌を返す様に焦げて丸くなる。 施設はぺちゃんこに踏みつぶされ爆発炎上していた。 あろうことか奴は一輪車を乗り捨てカメムシ爆弾ジャンプを決めたのだ。 ランドの…夢が…消えていく。 「フゥーハハハ! こう思ってるだろ? 正義って何だ」 「少なくともお前は正義じゃない!」 そういうのが精一杯だった。 「その言葉はお返しする。お前は力こそ正義だという。それを示せ」 カメムシライダーは力強いポーズで出迎えた。その姿が四分五裂する。 俺はとっさに右ストレートをよけた。早すぎる。回避が精いっぱいだ。 奴のグラデーションが途切れることなく去来する。 「そうやって逃げ回っているから正義を見失うんだ」 「なにおう? お前こそ今を見ようとしない」 「動体視力は衰えてないぞ!」 いきなりグリーンビームをお見舞いした。バシッとエメラルドが瞬く。嗚咽。 「貴様、グリーンフラッシャーを使ったな?」 「ああ。久しぶりだ」 俺は振り返る。畑を照らす野球場のような投光器。かつては夜の恋人達を彩っていた。 「いいヒントをくれた。終わりにしてやるぜ」 カメムシは塔をよじ登る。ビームの死角だ。撃てない。 支柱をへし折れば簡単だが来園者を照らしてきた数々の思い出は壊せない。 「グリーンビーン!」「ありがとう」「楽しかった」「また来るよ」 人々の声援がよみがえる。ああ、あの下で一生の愛を誓ったカップルもいる。 「どうした? グリーンビーン」 奴がとうとう昇りつめた。 「グリーンビームは穢れた心に与さない!」 「どうだか?!」 ごうっと野太い光条が通り過ぎた。ねっとりして腐った野菜サラダのようだ。 「どういうことだ」 俺は愕然とした。フラッシャーの根性が曲がるなんて。 「セキュリティーホールを突いたのさ。見て見ぬふりしてるが遊具は機械だ」 機械だ。 キカイだ。 「ぐはあつ」 俺は頭を抱えた。そうだ。自然がどういう言いながら機械文明に頼っていた。 「やっと気づいたか。そういうご都合主義が子供の情操に悪いと言ってる」 ううっ、そこまで言うなら徒手空拳と肉弾のみでお前を倒す。やっつける。 俺は身に着けた武器やフォームを投げ捨てると身軽な体で駆け出した。 俺達がぶつかる中で、インゲン豆の畑は風に舞い、回復力とバランスの物語を囁く葉を揺らす。緑が炎で爆ぜる度に俺は自然との共生の重要性、混沌の中での調和を見出すことを思い出される。 カメムシライダーは執拗に攻撃し、彼の機械の獣は畑を切り裂き、破壊を残していく。しかし、俺はひるまない。一撃ごと押し返し、ライダーに自然の強さと美しさを見せつけてやるる。 「とととととととぉ!」 俺たちは並走しながら拳を撃ちあった。 カメムシライダーが唱える「全ては進化のためだ! 私たちの技術は人類を次のステージへと導くのだ」 俺が言い返す「でもその進化が、生命を脅かすものなら、それは進化なんかじゃない。 自然との共生こそが、真の進…」 「共生?愚かな! 自然は征服されるべきだ。 それが人類の歴史を築いてきた!」 「征服してきた歴史が、今、この荒れ地を作ったんだ。俺たちの未来は、バランスの上に築かれるべきだ。」 「バランス?時代遅れだ。 我々は常に前を向かなければならない。 自然の美を超える新たな美を!」 「新たな美? お前の言う美が、この畑を破壊し、無数の命を奪うなら、俺はそんな美を望まん」 「ビーンよ。私たちの目的は高貴なんだ。経済的な成功、人間の豊かさ... それこそが正義だ!」 「豊かさは心にあるべきだ。自然と共に息づく平和... それこそが私が守りたい真の豊かさだ!」 「とととととととぉ! お前の言う平和は停滞だ。 成長なき平和は退化を意味する!」 カメムシライダーが拳を固める。 「成長だって? お前の成長がすべてを飲み込むなら、俺はその成長を止め…」 「止めるがいい。だが私は止まらん。 この公園は、新たな時代の象徴となる!」 「時代の象徴... か。 だが、お前の新時代は、このインゲン豆の畑から始まることはない。 俺は、この畑を、この自然を、最後の一粒のインゲン豆が枯れるその日まで守り抜く!」 「フッ。いいことを聞いたぜ」 カメムシはどこからともなくナルシストロンを取り出しひらりと跨った。 「おいっ、逃げるのか?」 「アホか。一周してお前を後ろから殺るんだよ!」 「ちょっ」 そういうと奴は爆音を残して消え去った。 「させるかああ」 俺は【種子フォーム】を発動。 このフォームでは、グリーンビーンは種子を飛ばして、短時間で植物を育てることができる。 これにより、バリケードを作ったり、一時的な隠れ家を作ったりすることが可能になる。だがそれは本質の一部だ。 種は環境を変える力になる。俺は無限の可能性を脚力に施した。 「どぉりゃあああ!」 あっという間に光の速さを超えた。太陽がどんどん青くなる。いや、それは天体でなくだった。人々の日常を含めたありとあらゆる事象がされて巨大なエネルギーに見える。 それが赤方偏移して観測されていただけなのだ。 荒れ地がどんどん若返っていく。煙が巻き戻り、焦げた木材が再構築される不思議な光景が広がる。 荒れ果てた遊園地が時間の流れを逆行し、壊れた遊具は自己修復の魔法にかかり、色と命を取り戻す。 子どもたちの歓声が逆再生の旋律を奏で、顔を合わせるときの無邪気な笑顔が、逆向きの一歩ごとに明るさを増していく。 中央の噴水では、カップルが時間に逆らって踊り、花々が満開からつぼみへと姿を変えながら、愛の誓いをささやく。 ポップコーンが空中からカップへと戻り、夕日が逆昇し、天空が若返るように明るい青へと変わる。 入場ゲートでは、光が溢れ出し、破り取られたチケットが一枚ずつ完全な形へと戻り、初めての開園日の賑わいを思い出させる。 そしてグリーンビーンが畑で種をまくシーンが巻き戻され、一粒一粒が土に吸い込まれ、可能性の瞬間へと時間を巻き戻す。 こうして、遊園地は黄金時代の息吹を内に秘め、再び始まりを告げる。3f496df3-1220-4adb-aff1-a4ef7504c35e
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