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無限に続く平行線を何周も戦ううちに、俺はカメムシライダーが悪ではなく、誤導されていることに気づく。彼は人工的な快楽と利益に取りつかれた社会の産物で、シンプルさと自然界の真の美しさに目を向けることができないでいるのではないか。
その根拠は一輪車だ。なぜ不安定な乗り物に拘るのか。そして「バランスがどうこう」という発言。俺は時を輪廻する道すがらをパークの跡地に寄った。
曲芸と安全性がせめぎ合う場所。
「もしやライド関係のスタッフ?」
俺は一人一人の経歴を追った。そしてついに見つけた。
かつてカメムシライダーは、テーマパーク「ワンダーランド」のバランスを保つ役目を担っていた。 彼は一輪車のアクロバットショーで有名で、その卓越したバランス感覚で多くの観客を魅了していた。 しかし、彼の「バランス」という言葉は、ただのパフォーマンスを超えた深い哲学を内包していた。
「バランスこそがすべてだ。人生も、この公園も、世界もな」と彼は信じて疑わなかった。 だが、その信念は徐々に彼を孤独にし、周りとの調和を乱す原因となっていく。
ある日、新しい経営陣がテーマパークの運営を引き継ぐ。 彼らは利益を優先し、カメムシライダーの一輪車ショーに変更を加えるよう要求した。 一輪車をより危険なスタントに変えることで観客を引きつけようとするのだ。 カメムシライダーはこれに猛反対し、「バランスを崩すな」と主張するが、経営陣は彼の意見を無視した。
やがて、変更されたショーでの事故が発生し、カメムシライダーは重傷を負う。 この事故は彼にとって、バランスを失ったことの象徴的な出来事だった。 彼の心の中で、バランスとは調和と安全を意味していたが、それが破壊されたのだ。
事故からの回復中、彼は痛みと怒りに苛まれる。 そして、その感情は暗黒面へと彼を引きずり込んだ。 「バランスが取れない世界など、破壊されるべきだ」という破滅的な考えに取り憑かれる。
カメムシライダーは、自身が失ったバランスを世界にも求めるようになり、それが達成できない現実に対する怒りを、テーマパークやその訪れる人々に向ける。 一輪車のショーで得た名声と尊敬を背に、彼は自らの力で「バランス」を取り戻すことを誓い、その過程で次第に暗黒面に堕ちていく。
この発見により、俺はアプローチを変える。カメムシライダーと戦う代わりに、彼にインゲン豆の畑の驚異を見せる。俺は彼を招き、自然の繊細なバランス、荒廃の中で繁栄するこれらの植物の回復力を目撃させることにした。
俺は猛ダッシュで米粒大の彼に迫った。時が向かい風より強く吹く。
「ようやく追いついたぞ! 亀梨頼人」
「ほっといてくれよ。どうせ私はカメムシだ。甘い汁を吸い悪臭を放つ。 美しいものなんて破壊するだけの存在さ。」
「違う!」俺は断言した。 風が収束し、時が一瞬静まり返る。 この畑の緑は、荒廃した地でも力強く根を張り、生き続ける。 それが自然の真実だ。
「お前が今立っているこの地面も、かつては荒れ果てていた。だが見ろ、インゲン豆は生き続け、そして繁栄している。 これが真のバランスだ。 生きとし生けるものが、破壊から回復し、共に生きる力強さだ。」
「だから何だ?」
男は背中を震わせる。
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