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わたし、幾田柚花とお姉ちゃんの凛花。昔は仲が良かった。どこに行くのにもわたしはお姉ちゃんについて行った。
でも今年、わたしが中学二年、お姉ちゃんが高校三年生になってから。お姉ちゃんはイライラしていることが多くなって、特にわたしへの当たりがきつくなってきたように思う。
進路だったり受験勉強だったり、わたしには分からないストレスを抱えていたのかもしれない。でも、それはわたしの知ったところじゃない。わたしにきつく当たるお姉ちゃんは嫌い。
だから、わたしはコックリさんにお願いした。
優しいお姉ちゃんを返してくださいって。
コックリさんをしたのはほんの軽い気持ち。雑誌の懐かしのオカルトコーナーに載っていたから。昔は騒ぎになりすぎてコックリさんを禁止にした学校もあるって書かれていたから、少しだけ期待していたけど、十円玉はピクリとも動かなかった。
やっぱりね。オカルトなんて眉唾もの。
だけど、お姉ちゃんは変わった。
「おはよー。柚花―」
次の日の朝一番、お姉ちゃんは挨拶とともに抱きついてきた。そんなこと一度もなかったのに。少しスキンシップが過剰とも思えたけど、それ以上に元通りの仲良しに戻れたことが嬉しかった。
お母さんもわたしたちの仲の悪さには悩んでいたらしく、わたしは気恥ずかしく、お姉ちゃんはニコニコと手を繋いでリビングに行くと「良かったわ。ようやく仲直りしたのねえ」と急な心変わりに目をパチクリさせてから喜んでいた。
お姉ちゃんはそれまでのイライラが消え失せたかのようにニコニコ笑っていた。以前のように優しく、いや、これまで無かったくらい触れてくるようになった。
ようやく元通りの関係に戻れたことに、表面上は出さなかったけど、家族みんなが安堵していた。
でも、わたしには徐々に違和感が目に映るようになってきた。
必要以上にベタベタとわたしに触れてきたり、これまで大切にしてきた人形を急に捨てようとしたりするのもそうだけど、例えば、前のお姉ちゃんはわたしの舌が痺れるくらい辛い食べ物が好きだったのに、今は香辛料が全然だめ。むしろ、甘い物が大好きになった。ああ、きつねうどんとか、油揚げもよく食べてる気がする。
決定的だったのは、ある夜、お姉ちゃんの部屋を覗くと、勉強机に座ったお姉ちゃんが手鏡に映った自分の顔を見ながら「私は幾田凛花。私は幾田凛花。私は幾田凛花。私は……」と自分の名前を確認するように延々と呟いていた。
その時、わたしは気がついた。
実は、あの日のコックリさんは成功していたんだ。今のお姉ちゃんは私がコックリさんで呼び出した何かが化けていて、本当のお姉ちゃんはどこかに行っちゃたんだって。きっと、正体は狐の霊。
そう。お姉ちゃんが変わってしまったのは、わたしのせい。
「最近のお姉ちゃん、変じゃない?」
お母さんに話してみたけど、
「あの子にも色々あるのよ。大人になったってことよ。イライラしてるよりずっと良いでしょ」
と、お姉ちゃんに対する違和感よりも、以前の仲の悪い二人に戻られることのほうが嫌みたいだった。
あまり期待せずお父さんにも話してみると、
「まあ、年頃の娘だからな。難しいな」
と、あんまり関わりたくないみたいに素っ気なく言った。やっぱり、お父さんは頼りにならない。
家族は。あてにできない。かといって、友達にお姉ちゃんがこっくりさんに取って代わられたから助けてほしい、なんて酔狂なことを友達に言えるはずもない。霊能者と呼ばれる人たちに依頼するのも、神社でお祓いしてもらうのすら、中学生のわたしのお小遣いじゃ厳しい。
わたしだけでどうにかするしか無い。そもそも、お姉ちゃんが変わってしまったのはわたしの責任なんだから。
わたしは色々なインターネットの掲示板や本でコックリさんを調べて、弱点をつくことにした。
でも、そのどれもが失敗。
例えば、急に辛い食べ物が苦手になったから弱点なのかもしれないと、お姉ちゃんのご飯にタバスコを仕込んでみた。しかし、結果はお姉ちゃんを悶絶させることは出来たけどそれだけ。後でお母さんにこっぴどく叱られてしまった。
狐の弱点といえば犬。友達に借りて犬をけしかけてみたけど、やっぱりこれもダメ。お姉ちゃんに顎を撫でられた子犬は嬉しそうに鳴くだけだった。
狐に化かされたらタバコの煙なんて話もいくつか見たけど、愛煙家のお父さんが家にいるのだから、試す必要すらない。
その他にもいろいろ試しはしたものの、お姉ちゃんは歯牙にもかけず、中には気付かれもしなかったものすらあった。
失敗に失敗を重ねて、ただ本物のお姉ちゃんが居ない時間だけが過ぎていく。
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