お姉ちゃんの姿をした得体の知れないなにか

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 わたしが神社に行くと言うと、お父さんとお母さんは不思議そうな顔をしたのに、何故かお姉ちゃんはついてきた。  お姉ちゃんの動機が分からない行動以上は嫌だ。でも、今のお姉ちゃんに気を許して、二人きりで出かけることに違和感を覚えなくなりつつある自分はもっと嫌。 「帰ろう」  口に出して、わたしはさっさと振り向く。これ以上、今のお姉ちゃんと二人きりでいるのに馴染みたくない。  でも、お姉ちゃんは炎の前から動かなかった。 「もう少し見ていきましょう。最後なんだから」  その言葉に、わたしは足を止めて振り返る。 「最後?」 「ええ。これで最後。もう少しで終わり」  お姉ちゃんはこちらではなく、炎を見つめたまま言った。  もしかしたら、こいつの化けていられる時間には期限があって、それが今終わろうとしているのか。やっと、お姉ちゃんが戻ってくる。ほのかな期待が、わたしの中で膨らんでいく。 「仕方ないなあ」  ニヤけてしまいそうな内心を隠して、わたしはお姉ちゃんの隣に戻った。炎に包まれた人形の表面が溶けて、少しずつ人の形を失っていく。 「前に、私をコックリさんだって言ったでしょ」 「うん」 「私はコックリさんじゃない。これは本当よ。柚花がコックリさんをしたことすら知らなかったもの」 「そっか」  わたしは気もそぞろに返事をする。やっぱり、わたしのコックリさんは失敗してたんだ。でも、そんなこと、お姉ちゃんが戻ってくることに対したら、些細なこと。今更どうでもいい。  今までのわたしだったら、こいつの言うことなんて反発して聞く耳を持たなかったはずだ。それなのに、今のわたしは心に余裕ができたからか素直に、隣に立ってゆっくりと聞くことが出来る。 「あなたのお姉さんはとても優しかったわ」  お姉ちゃんがポツリポツリと懐かしむように語りだす。 「こんな得体のしれない私が突然話しかけても、怖がるどころか喜んでくれたもの。私は怖がられるかもって、内心ドキドキしながら何度もタイミングを図ってようやく話しかけたのに」  仲が悪くなる前のお姉ちゃんはそうだった。わたしの全部を否定せずに包み込んでくれる優しい人だった。懐かしい。まさか、コックリさんの話で思い出させられるなんて。 「私が一度でいいから自由に動いてみたい。自分の足で歩いてみたい。って望みを打ち明けた時も、少しの間だけなら。そう言って入れ替わってくれたのよ。本当に優しい人」  突然、心臓が嫌に重く鼓動する。理由は理解できないけど、嫌な予感で頭が一杯になる。 「……あなた、誰?」 「私はリマ」  お姉ちゃんはニンマリと口角を上げて名乗った。それは、本当のお姉ちゃんがわたしに隠れて呼んでいた人形の名前。眼の前で炎に包まれて焼かれている人形の名前。 「ふふ、少しの間だけ、あなたのお姉さんと魂を入れ替えてもらったの。私が凛花の身体に。凛花が私の身体にって。約束した元に戻る期限がもう間近に迫ってたの。でもね……」  お姉ちゃんは炎を見下ろす。たぶん、炎の中でもうグズグズに溶けて原型を留めていない元の自分の姿を。  こいつがお姉ちゃんと入れ替わった人形は、もう無くなってしまった。なら、本当のお姉ちゃんは?  これまで生きてきた中で最悪の想像が頭に浮かんできて、歯が、指の先が、全身がカタカタと震えだしてしまう。溶けてほとんど無くなった人形から見開いた目を離すことが出来ない。
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