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教室へ入ると、私は一瞬立ち止まった。
ちょっとためらったけれど、勇気を振り絞ろう。
「お、おはよう!!」
大きな声を出してみた。
すると、教壇のところで固まっていた女の子のグループが、呆気にとられたようにあたしを見た。
「おはよー」
その中のひとりが、あいさつを返してくれる。
いつもにこにこしている、お姉さんのような雰囲気の友田さんだ。
彼女とは初めて同じクラスになった。
「おはよー」
「おはよー、三崎さん」
一瞬固まっていたけれど、友田さんに続いて他の子もあいさつしてくれた。
その中には、あたしの名字まで知っていてくれた子もいた。
嬉しい……!! 単純に、嬉しかった。
あいさつだけで嬉しいなんて、初めて感じた。
これも、あざのなくなったお陰だ。誰も何も言わない。
一気に自分に自信がついた。
あたしはランドセルを背負ったまま、教壇に向かって行く。
友田さんたちは、アイドル雑誌を広げて、眺めていた。
「永瀬廉、かぁっこいいよねー」
「もうほんと王子さま」
「私は中島健人が王子さまに見える」
「わかるー」
「私は菊池風磨くん派」
「いいよねー」
あたしが輪に近づくと、自然と彼女たちはよけて、スペースを空けてくれた。
「三崎さんは誰がかっこいいと思う?」
少し太目の子……ええと、ユキちゃんとか言ったっけ……が話を振ってくれる。
あたしはいつも独りだったけれど、その分周りのことはよく見ていた。
だから友田さんがいつもにこにこしているのも、ユキちゃんが最近このグループに入ったことも、知っていた。
内に籠もるってことは、その反面、周囲のことには敏感になっていることでもある。
「ミサキ? あれ、キサキさんじゃなかったっけ?」
小柄でくるくるした天パの、沖野さんが首を傾げる。
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