走る、光射す方へ

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 シャリ、と、ハサミが入る音がした。  そのまま奏多ちゃんはためらうこともなく、シャシャシャっとハサミを進める。  失恋すると女子は髪を切るっていうけれど、これはあたしの、過去とのお別れの儀式なのかもしれない、なんてぼんやり思っていた。  ぱさ、ぱさ、と長かった前髪が床に落ちる音がする。 「ふふ……」 「何笑ってるの?」  パリパリと、友田さんは今度はおせんべいに手をつけたらしく、齧る音の間に声をかけてきた。 「何だか嬉しくて」 「そうだよねー。女の子は変わるのって嬉しいよね」  奏多ちゃんが言ってくれる。  パリパリ、友田さんの出す音。  シャキシャキ、奏多ちゃんが出す音。  ふふ、うふふ、と私が漏らす音。  総て祝福の音のように思う。 「できた」  ふぅ、という息とともに、奏多ちゃんはハサミを置く。 「おー、いいじゃない。すっきりしたね」  友田さんはお茶をずずっとすすりながら笑ってくれる。 「可愛い可愛い」  奏多ちゃんが私の顔にかかった、切れ毛を払いながら言ってくれる。 「ほんと? よくなった?」 「よくなったよくなった」  ぱちぱちぱち……と、ふたりは拍手。  可愛い、なんて言われたの初めてで、ちょっと照れてしまった。 「鏡、見ていい?」 「どうぞどうぞ」 「別人になったよ」  私は立ち上がり、スカートに落ちた髪を手で落として、いそいそと壁際の姿鏡の前に立つ。 「……え」  思わず声が出てしまった。  それは落胆の声だ。  出来栄えがどうとか、そういうレベルの問題じゃなかった。
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