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 パチンコ店からの帰り道、静かな夜道で、足が何かに引っ掛かり、小坂俊夫は転びかけた。  振り返ってたった今通った道を睨みつけるが、わずかにアスファルトのひび割れが見えるだけだった。あんなものに躓いたのか。歩きスマホをしていた自分が悪いとはいえ、道路にさえ馬鹿にされたように思えて苛立ちを覚えた。  その瞬間、先ほどまで歩いていた方向から、ギン、と鋭い音が鳴り響いた。 「うわっ」  弾かれたように向き直ると、金属製のスパナのようなものが動きを止めたのが目に入った。左手を見上げれば、建設中のマンションの足場が見える。この金属の塊はあの足場から落ちてきたのだと理解した時、体の奥が急激に冷える感覚を覚えた。危なかった。躓くことなく直進していたら、俊夫に直撃していたかもしれない。 「これは警告だよ、小坂俊夫」  ぎょっとして突如聞こえた声の方を見ると、街頭の下に子供が立っていた。 さらさらのおかっぱ頭に光が反射している。目の中の大きく、黒い瞳が俊夫をじっと見つめていた。白い長ズボン、長袖シャツを着た、小学校低学年くらいの男の子だった。 「誰?」  俊夫は恐る恐る訪ねた。 「僕は天使。最近の俊夫は悪行を重ね過ぎて見てられないって、神様が僕を送ったんだ。早くちゃんとした人間にならないと、さっきみたいな事故で死ぬことになるよ」  俊夫は息を深く吸い、冷静になろうと試みた。 「いや、子供だろ、お前。こんな時間に何してるんだよ。家はどこだ」 「天使だって言ってるじゃん。ほら、触ってみて」  自称天使は手を前に差し出した。俊夫はそれに触れてみようとしたが、何の手ごたえもないまま、俊夫の手は子供の手をすり抜けた。 「触れないんだよ。面白いだろ~」  鼻を鳴らして何やら楽しそうではあるが、それだけで、少年が超常の存在だと信じるには十分だった。 「しばらく僕が見てるから、頑張ってね、俊夫」 「はぁ、俺は何をすれば」 「今日はとりあえず帰ろう。夜更かしは体に良くないよ」
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